TSNとローカル5G

2024.11.13

中島 暁子 中島 暁子

目次

先日、CEATEC2024(2024年10月15日~18日、幕張メッセ)の5G/6Gスペシャルデーを聴講しました。国内外の5G機器メーカー、通信事業者、ユーザによるプレゼンテーションやパネルディスカッションから構成され、最新の業界動向に触れることが出来ました。

ここで印象深かったのは、プライベート5G/ローカル5Gの特徴について「安定接続」「高セキュリティ」「低遅延」を挙げていた講演者が多かったことです。8月に当ブログにおいても拙筆「ローカル5Gの使い方を考える」を公開させていただきましたが、各社とも同様の流れになっていることに、今後の5Gの方向性を見た気がします。

今回は、実際にこれらの特徴を活かすことが期待されている製造業でのローカル5G活用において期待されている「TSNとの連携」についてお話ししたいと思います。

TSN概要

TSN(Time Sensitive Network)はイーサネットをベースとしたデータリンク層のプロトコルです。TSNにより、IT(Information Technology)とOT(Operational Technology)の融合が期待されています。

人材不足対策や業務効率化、技術進歩の速さへの適用などから、産業界でもDX化に向けた取り組みが進められています。DX化においては、ITとOTの融合が不可欠です。ところが、この2つはそもそも求められる要件が全く異なるため、融合には様々な課題があります。

この様々な課題の中で、イーサネット通信におけるリアルタイム性を解決するプロトコルとして期待されているのがTSNです。

本来、イーサネットは以下のような概念を持ちます。

  • フレームの到着順番は保証しない
  • フレームの確実な到着を保証しない
  • フレームがいつ到着するのか保証しない
  • 帯域幅は保証しない

極端な表現を使うと、イーサネットは「遅延や欠損が許される」ネットワークです。

しかし産業用ネットワークはそうはいきません。特にマシン制御系のネットワークは「遅延は限りなく小さく」「データの欠損はゼロ」が求められます。

TSNはイーサネットベースのプロトコルですが、以下の概念を持ちます。

  • 遅延やジッタを最小限に抑え、フレームの到着時間を保証する
  • フレームの確実な到着を保証する

このため、TSNを使用することにより、従来実現できなかった産業ネットワークへのイーサネット活用が期待されています。

TSN自体はIEEEで標準化されている複数の規格で構成されています。ここでは技術的な詳細は記載しませんが、代表的な規格を以下に記載します。

標準化 タイトル 内容
802.1AS-Rev Timing and Synchronization 時刻同期の仕様。時刻を伝送するプロトコルを定義。
802.1Qbv Enhancements for Schedule Traffic 時分割スケジューリングの仕様。

スケジュールされたEthernetフレームを時刻通りに送信。

802.1Qbu Frame Preemption フレーム割り込みの仕様。
優先度の高いEthernetフレームの割り込みを可能にする。
802.1Qci Per-Stream Filtering and Policing ストリーム単位のフィルタリングやポリシングの仕様。
異常デバイスからの分離、悪意のある攻撃などからネットワークを保護。
802.1Qcc Stream Reservation Enhancements ストリームの予約を行う仕様。集中管理システムが可能となる。
802.1CM Time-Sensitive Networking for Front-haul モバイルのフロントホール向けのTSNの仕様。
CPRI, eCPRIに対応。

このブログのテーマは「5GとTSN」である為、具体的なTSN通信を実現する構成については、次のページで細かくご説明いたします。

ローカル5GとTSN

ローカル5Gで当初期待されていた「超高速」「超低遅延」「多数同時接続」のうち、現時点で期待値が最も高いのは「超低遅延」です。この特徴はTSNが追求するリアルタイム性と通じる部分が多いため、ローカル5GとTSNを組み合わせてリアルタイム性の高いネットワークを構築しようという取り組みが始まっています。

3GPPで定義されているTSNを使ったネットワークアーキテクチャは以下の通りです。

Web 1920 – 1-2

DS-TT(Device-Side TSN Translator)がデバイス側、NW-TT(Network-Side TSN Translator)がネットワーク側のTSNトランスレータとして機能します。DS-TTは5GのUE(User Equipment)、NW-TTはUPF(User Plane Function)と結びつき、5GネットワークにおけるTSN通信を行う橋渡しをします。こちらがU-Plane(User Plane)の信号を受け渡すルートです。また、TSN AF(Application Function)はC-Plane(Control Plane) の通信を橋渡しするために機能します。

これを簡単な模式図で表すと以下のような構成となります。

Web 1920 – 2-1

DS-TT、NW-TTを両端として、5Gシステム全体をTSNブリッジとして見なす構成です。

当然ながら、5Gを構成するUE、RAN(図ではRU,DU,CUの分離システムで表現)、5GCがそれぞれTSNに対応している必要があります。

また、もう一つ考えなれければならないのが、時刻同期です。

5Gシステムで時刻同期が重要であることはご存知の方も多いと思いますが、この時刻情報は主にgNBに取り込まれてシステム内の同期をとるために使用されます。

しかし5GでTSNを使う場合、UPFまで一括りでTSNブリッジとして定義されます。つまり、見た通りに判断すると、UPFもgNBも共通の時刻情報が必要、と読み取れます。

なお、TSNと5Gは時刻同期のプロファイルが異なるため、それぞれ独立して機能します。

例えば、Downlink通信では以下のような動作をします。

Web 1920 – 3-1

システム全体での時刻同期の取り方はいくつか検討されていますが、いずれにしても通常の5Gシステム以上に、時刻同期についての取り扱いは注意が必要です。

ASOCSのTSNへの取り組み

CTCが取り扱っているASOCS社のローカル5Gソフトウェアは、開発直後から産業用向けネットワークでのローカル5G活用に着目してきました。

そのため、ASOCSが掲げているローカル5Gの機能要件は通常の商用向け5Gとは異なります。以下の表の左側がASOCSが目指す機能、右が通常の5Gの機能要件です。

製品の基礎要素 産業グレード 商業グレード
サービス可用性 99.999% 99.9%
パケットロス(UDP) 0.001% 0.1%
遅延(ユースケースにより異なる) 常に10ミリ秒以下 平均10~100ミリ秒
URLLC(一定周期、eMBBとの組み合わせ) 対応 非対応
5Gポジショニング 対応 非対応

ASOCSが掲げる5G機能要件

 

無線技術でゼロパケット、99.999%の可用性(ゼロダウンタイム)を目指すことは非常にハードルが高いですが、産業用ネットワークに無線を使うには必須要件であるとASOCSは考えています。

TSNとの連携の必要性も早い段階で認識しており、その取り組み開始は2022年と他社に比べてかなり先行しています。現時点では実装に向けた開発が進められており、2025年中にはアーリーアダプター向けにTSN連携機能の提供を開始する予定です。実現にあたり、具体的に以下のような技術の実装に取り組んでいます。

  • 5G時刻とTSNドメインの同期
  • 時刻補正の為、UEへのRTI(Reference Time Information)のブロードキャスティング

Web 1920 – 4

ASOCSの考えるTSNとの連携

 

具体的なTSN translatorの実装方法や実現時期はまだ検討中ですが、産業界でローカル5Gを活用するための取り組みは、既にメーカーレベルでも始まっています。

まとめ

今回は難しい話でしたが、TSNとローカル5Gの組み合わせについてご紹介しました。

この標準化の取り組みは現時点でも継続しており、一部の機能はRelease17で定義される内容となっております。そのため、ここでは断定的なことをお伝えできていない点もあること、ご容赦ください。

産業用ネットワークの無線化には様々な課題がありますが、CTCはASOCSと共にこれらの課題解決に向けた取り組みを開始しています。実際に動作させられる状態になった際は、ぜひこちらでもご紹介したいと思います。続報をお待ちください。

 

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中島 暁子 中島 暁子

2002年入社。衛星通信運用業務を経て、2008年より地域WiMAX、Wi-Fiなど無線関連のサービス企画、プリセールス、導入作業に携わる。 現在はCTCグループの5G/ローカル5GにおいてRAN領域全般を担当。