目次
Greeting & Intro
みなさん、はじめまして。情報通信事業グループ 川島と申します。
十数年にわたり日本の通信キャリア様のインフラの設計および構築に従事した後、3年間の米国駐在員を経て、現在は「いろいろやってる職」をしています(自身の仕事内容が広く、簡潔に説明しにくいので、こうした表現に落ち着いています、ご容赦を……)。
弊社伊藤忠テクノソリューションズ (以降、CTC) は、日本の様々なお客様に最先端のICT製品とソリューションを提供すべく、1990年に米国はカリフォルニア州サンタクララに拠点(現Itochu Techno-Solutions America, inc、通称CTCA)を設けてから今年で33年、今日に至るまで米国を中心に最新動向調査ならびに新規商材開拓も行っています。
本ブログでは、上記活動を踏まえ、米国を中心とした先端技術やIT市場の動向など、私が日々お客様にご紹介差し上げているトピックスから、ピックアップして随時紹介していきます。
所属と来歴からご想像がつくかもしれませんが、わたし、専門はテレコム畑なんです。なので、トピックスは、米国を中心とした「通信キャリア動向」と「それに関連する様々な最新動向」が中心となります。
え、あぁそう、じゃあ私には関係ない記事かな……と思ったそこのあなた。商用サービス開始から4年経った5Gの喧騒(韓国通信キャリアSKTの5Gの振り返り)をご覧になればお分かりになる通り、今日のICTは、通信キャリアのみならず、ハイパースケーラー、スーパーアプリなど、「単にブロードバンド通信だけでは完結しない」時代です。
よって、本ブログは、通信キャリアのみならず、ハイパースケーラーや企業、スタートアップなど、必然的にトピックスの内容が多岐にわたることとなります。
なので……ちょっとだけでも覗いていってくださると……泣いて喜びます。
前置きが長くなりましたが、本記事は、その第1回。Vol.0と題して、本ブログの背景と、今後紹介していくトピックスについて概説します。
Background
ん? 第1回がVol.0?
と思われた方、そこにはもちろん理由があります。
みなさんにイメージしてもらいたいのですが、最新の技術とそれを生かした製品・ソリューションは、どこで生まれ、世界に広がって行くと思われますか?
世界の趨勢は一定ではなく、常に1強が存在する、というわけではもちろんありませんが、多くの方が米国を想起されるのではないでしょうか。
みなさんが、ご自身の所属する業界の「最新の動向・トレンド」を知ろう、と思ったとき、誰の動きを参考にしますか?
私は、お客様とお話する中で、「米国通信キャリアはどうしているのか? 先をどう考えているのか?」とよく質問を受けますので、日本のテレコム業界では、「とりま、米国通信キャリアを参考に」となると考えています。
では、米国通信キャリアの動向を知ったとして、それをそのまま日本に輸入して、同じように成功することは可能でしょうか?
答えは、Partially Yesとなるかと考えます。
なぜでしょうか?
どのようなビジネスでもそうであると考えますが、ビジネス環境は国ごとに土地ごとに変わるから、です。
もちろん、通信技術には、国際標準規格やデファクトスタンダードがありますから、似通う部分・そのまま使える部分も多分にあります。
一方で、日本と米国では、ビジネス環境に異なる点が多々あります。
みなさんに今後トピックスをご覧いただく上で、まずは、日米の違い、日米通信キャリアの違い、を踏まえてご覧頂く必要があると考えますので、Vol.0を謳うのです。
日本と米国の通信事情
ということで、ようやく本記事の本題です。以下に、日本と米国の通信事情を比較してみました。
■日本と米国の通信事情(※1)〔数値は対人口比〕
米国 |
日本 |
|
インターネット普及率 |
90.9% |
90.22% |
モバイルブロードバンド普及率 |
169.00% |
190.48% |
携帯電話普及率 |
107.31% |
160.88% |
固定ブロードバンド普及率 |
37.70% |
36.08% |
主たるモバイル契約形態 |
ポストペイド(高所得者層) |
ポストペイド |
主たるインターネット利用形態 |
Wi-Fi Hotspot |
LTE/5GFTTH |
出典1:ITU(International Telecommunication Union)
出典2:GLOBAL NOTE
※1:2021年時点の数値をもとに記載
いかがでしょうか。「対人口比」でみる普及率は、存外、日米に差はありませんね。一方で、こんな統計(2021年時点)もあります。
- 米国の全世帯の22.5%、つまり2,760万世帯がインターネットにまったくアクセスできない
- 265,331世帯は、まだダイヤルアップ接続しか利用していない
- 米国の全世帯の6.5%に当たる800万以上の世帯が、インターネットへの接続に衛星インターネットを利用している
イーロン・マスク氏が率いる米Space Exploration Technologies Corp.(SpaceX)の衛星通信サービスStarlinkが米国で話題になるのも頷けるというものです。
出典3:Reviews.org
米国は、インターネット回線品質が日本ほど高品質ではない(※2)上、上記統計にみられるようにルーラルエリアカバレッジが貧弱、大陸故に都市が点在し、その間の伝送距離が日本と比較して長距離、などなど、日本と違った特徴があります。
※2:実体験として、契約していたケーブルインターネットサービスComcast Xfinityが回線障害で4~5時間通信断することが数ヶ月に一回くらいありました。
米国での通信障害は体感として日本と比べて多く、かつ、その障害が大規模であっても、日本のように総務省報告や国会召喚と言った事態に発展することはまずありません。
よって、当該障害を発生させた通信キャリアが公的に謝罪会見を開き、非難にさらされると言ったシーンもそうそうありません(もちろん企業として説明責任は発生しますので、プレスやSNSなどを使用して原因や対策等について発表はしますし、カスタマーサポートはクレームの嵐かもしれませんが……)。
そもそも、SLAが存在しない一般消費者向けインターネット通信サービスに、「いわゆる高品質を求める」といったことは、米国では通常ありません。
諦観にも似た、あぁまたか、頼むわホント、レビュー低評価な(American Customer Satisfaction Index:ACSIの評価スコアで66と低評価)、となるのが実情なわけです。
加えて、米国では、通信キャリアが純民間企業であり、連邦政府/州政府主導のブロードバンドインフラへの公共投資が巨額とはいえ実質不十分であることも相まって、ユニバーサルサービスとしてのブロードバンド普及推進に障壁となる要因が多いとも考えられます。
表中に赤字でハイライトした、モバイル契約形態とインターネット利用形態の違いも特徴的です。
貧富の差が大きい米国(相対的貧困率は17.8%・2019年に上位10%の世帯が国の富の72%を保有)では、ポストペイド契約に必要な信用スコア(※3)が低い低所得者層(Poor/Fairに該当する与信が低いいわゆるサブプライム層)も多く、日本国内利用では馴染みのないプリペイドを選択せざるを得ない状況があります。
※3:FISCOスコア
日本では馴染みがないですが、米国では与信に関してFISCOスコアをベンチマークとしており、Good以上のレンジにいないとポストペイド契約も車のローン契約もとても難しいです。
出典4:experian
また、下図に示す通り、モバイルカバレッジも日本と比較して人口密集地・都市部中心でかつ斑目であること、LTEの時代から通信品質がよくない(都心部でもカバレッジホールがあり、郊外では3GやGSMに落ちることがある)都市や店舗などでFree Wi-Fiホットスポットが積極的に利用されています。
〈米国のLTEカバレッジ〉
出典5:FCC(Federal Communication Commission:米連邦通信委員会、日本で言う総務省に当たります)
そして、固定ブロードバンド回線では、日本の通信キャリアと比較してFTTHのカバレッジが極端に狭く、AT&TやVerizonなどの通信キャリアのADSL/FTTHと言ったブロードバンドサービスよりも、ケーブルテレビ事業者のComcastやCharter Communicatiosnなどのケーブルインターネットが中心です(米連邦通信委員会FCCが公開している全米のブロードバンドカバレッジは、かなりの面積をカバーしているように見えますが、実態と異なるとThe Vergeなどで皮肉られていたりもします)。
〈米総合通信キャリアの代表格
AT&TのブロードバンドサービスAT&T Fiberのカバレッジ〉
出典6:AT&T
〈米モバイル通信キャリアの代表格
VerizonのブロードバンドサービスFiOSのカバレッジ〉
出典7:Verizon
〈米ケーブルテレビ・インターネットの代表格
ComcastのケーブルインターネットサービスXfinityのカバレッジ〉
出典8:Reviews.org
Summary & Take Away
日本と米国の通信事情の違い、いかがでしたか?
〈日本と違う米国の通信事情〉
- 対人口比で普及しているように見えても、実際はカバレッジに穴が多い
- 貧富の差で、モバイルの契約形態が異なる
- ケーブルテレビインターネットが強く、インターネット利用形態が異なる
こうした米国のビジネス環境を踏まえて、米国通信キャリアのサービスは企画・展開されています。
❝米国通信キャリアの動向を知ったとして、それをそのまま日本に輸入して、同じように成功することは可能か?
Partially Yes、日本と米国では、ビジネス環境に異なる点が多々あります❞
と述べたのはこうした背景があるからです。
今後のトピックスにおいて紹介する、北米地域を中心とした先端技術やIT市場の動向は、参考になる点も多分にあると信じていますが、一方で、日本において参考とするには、常に日米のビジネス環境の差分を意識したFit & Gap分析が必要なことも事実です。
まずは、上記を念頭においていただいた上で、次回以降の記事を読んでいただければ幸いです。
今後のお話
次回以降、以下の6つからピックアップしたトピックスを随時展開していきます。
- 欧米通信キャリアのInvestor Relations・Newsroom・イベントにおけるプレゼンをベースとした、海外キャリア動向
- リサーチ会社各社のレポートをベースとした、短中期マーケット予測
- GAFAMあらためMATANAを始めとした、ハイパースケーラーのNewsroom・イベントにおけるプレゼンをベースとした最新動向
- 最新技術を活用する企業・サービサーのNewsroom・イベントにおけるプレゼンをベースとした、最新ユースケース動向
- CTC取り扱い商材に関係する主要ベンダーのNewsroom・イベントにおけるプレゼンをベースとした、新製品の動向
- 最新のBuzzwordsに関連したスタートアップのNewsroom・イベントにおけるプレゼンをベースとした、新技術の動向
次回Vol.1では、上記トピックスを紹介するにあたって、もう一つの予備知識となる米国3大通信キャリア(AT&T、Verizon、T-Mobile US)について概説します。
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Thank for your interests, see you the next topics!