伊藤忠テクノソリューションズ株式会社(以下、CTC)は、2023 年2 月に開催された「第73 回さっぽろ雪まつり」で、イベントや周辺の観光・飲食店に関する問い合わせにAI チャットボットで自動応答するサービスを提供した。本稿では、その概要と今後の展開について紹介する。(株式会社ビジコミ発行 ビジネスコミュニケーション2023年10月号掲載記事を一部編集)
コミュニケーションデザイン部
主任 小島 宏之(写真左)
堀江 奈央(写真右)
短期間に集中する問い合わせ対応の効率化
札幌観光協会他が主催、さっぽろ雪まつり実行委員会が企画運営するさっぽろ雪まつりには、例年3 週間の開催期間中に約200 万人が来訪する。
さっぽろ雪まつりの情報提供は、電話、Web サイト、SNS など幅広い方法で行っているものの、電話での問い合わせは一定量あり、それに対するさっぽろ雪まつり実行委員会の負担は大きい。
問い合わせは、開催地周辺の観光スポット、宿泊施設、飲食店のほか、目当ての雪像が設置されている場所、駐車場へのアクセスなど細かい事項に及ぶ。
実際、短期間に集中する問い合わせに対し、限られた人員で問い合わせ者が満足する質の高い回答をすることは容易ではない。
こうした状況のなか、同委員会はかねてより業務を効率化する方法を模索していた。
チャットボット活用のメリット
そこでCTC は、チャットボットの活用を提案した。
既に2020 年第71 回のさっぽろ雪まつりではチャットボットを試験導入した経緯があるものの、コロナ禍のために3年を経て、今年第73 回で本格的に導入を実現できる運びとなった。
さっぽろ雪まつりにチャットボットを活用するメリットとしては、主に以下の4 点が挙げられる。
まず第一に、対応の自動化によって属人性や業務負荷を軽減できる。第二に、多言語対応でインバウンド客の満足度向上を実現できる。第三に、タイムリーな情報提供ができる。そして第四に、会話データを蓄積・分析・ナレッジ化してマーケティング等に活かすことができる。
「我々は、単にさっぽろ雪まつり実行委員会様の負担軽減の支援をすることを目的にチャットボットをご提案したわけではありません。さっぽろ雪まつりで得たデータやノウハウを、さっぽろオータムフェストをはじめとする他のイベントへ展開できることがCTC の強みであり、本取り組みの意義であると考えています。札幌観光協会他・さっぽろ雪まつり実行委員会様と共創させていただきながら、継続的にブラッシュアップを図ることで、マーケティングを含めた地域活性化のための基盤を整備したいと思います」(小島)。
さっぽろ雪まつりでの運用と成果
CTC は、さっぽろ雪まつりでのチャットボット運用にあたり、札幌観光協会への問い合わせ履歴や、約300 件のFAQ(Frequently Asked Question:よくあるご質問)データをセットし、約1 か月という短期間のうちにサービスを構築した。
その結果、FAQ の正答率は9 割以上を記録し、問い合わせ者の満足度アップに繋げることができた。
また、例年来訪者の15 ~ 20%を占めるインバウンドに向けて、日本語・英語・中国語の3か国語でのサービスを提供した(図1)。
図1 さっぽろ雪まつりのチャットボット画面イメージ
コロナ禍があけて今後一層インバウンドが増大すると予想されるなか、サービス拡充の足掛かりを築くことができた。
今回の成果について堀江は次のように語る。
「新型コロナウイルスへの対応など、さっぽろ雪まつり開催中に日々新しい情報を追加したり、データを変更したり、といった点には苦心しましたが、担当者様から『業務負担を大幅に軽減できました』との評価をいただいた時には、とても嬉しく感じました。」
質問者の意図を読み取るAI チャットボット「SmartRobot」
CTC は、本取り組みにおいて台湾Intumit 社のAI チャットボットを採用した。同製品は、台湾主要銀行の約8 割への導入実績を誇る。
自然言語処理と独自開発したAI エンジンにより、質問者(利用者)の意図を理解し、登録済みQ & A だけでなく未登録のQ & A に対しても回答することができる(図2)。
図2 生成AIを活用したAIチャットボット
高い正答率に加え、目的達成をサポートする機能が大きな強みだ。例えば、質問者が質問内容を整理しない状態で曖昧な問い合わせしてきた場合、階層別にQA を繰り返すことで質問内容を分類→整理→誘導し、質問者が真に聞きたいことであろう疑問にアプローチし、回答する。
CTC は、Intumit 社への出資とともに日本国内での同製品提供を行っており、導入や保守対応に加えて、既存のチャットシステムや企業内システムとの連携なども担っている。
今後、Intumit 社と共同でAIエンジンの開発を視野に入れたうえで協業を進め、広くお客様のサービス向上に貢献していく意向だ。
経験値、データ、ノウハウを今後の観光マーケティングに展開
小島・堀江両名は、さっぽろ雪まつりのエピソードとして次のように語っている。
「札幌観光協会様から閉会後も暫くチャットボットを利用できるようにしてほしいとの連絡がありました。理由をお聞きすると、忘れ物に関する問い合わせが多く、それに対応してほしいとのこと。我々としては想定外のことではありましたが、チャットボットを有用に活用していただけることへの手ごたえを実感しました。こういったニーズがあるのだという“気づき”にもなりました。」
CTC はこうしたことも含めたうえで、さっぽろ雪まつりの経験値を最大限に活かし、データやノウハウを札幌市の観光マーケティングに本格的に展開していく。現在、イベント来訪者に飲食店を紹介し、広告収入に繋げるなど新しいアイデアについても検討中だ。今後のサービスの
充実に各方面から大きな期待が寄せられている。