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Service Design Global Conference2023に参加して

作成者: 佐藤 久信|2024.06.20

はじめに

 「サービスこそ我が社の命なり」

   私が以前働いていた会社の社是で、日本の情報処理サービス産業の先駆けの企業でシステムインテグレーターやインテグレーションという言葉が、まだ生まれる前の気がします。数十年経ちサービスを考える。サービスは、誰のために、いつ、どこで、どのように・・・。

考えるにあたり、サービスの学問的なアプローチはあるのだろうか?また、アート&デザインのような思考法は存在するのだろうか?

サービスのデザイン、サービスをデザインする、という感じで、ユーザに対してサービス業的な考え方はできるが、サービス自体はサービス業の業界特有なものではなく、ユーザがいる全ての産業・業種で必要となる姿勢で、言ってみればあらゆるビジネスに顧客が存在するように、全てのビジネスに顧客サービスが不可欠であると言うことと考えられます。

顧客がどう感じるか、感じることで顧客の行動変化をどう期待できるか、「サービス」と言うものは、非常に興味深く、人によって感じ方が違うように100パーセントの正解はないと思いますが、効果を期待して効率的にイノベーションを起こしていくためにも重要な方法論である「サービスデザイン」について解説をしていきます。

また、昨年ドイツ・ベルリンで開催されたService Design Global Confererence2023(以下SDGC2023)のレポートもお話をします。

サービスデザインとは

ユーザエクスペリエンス(UX)、ユーザ体験はよく聞く言葉ですが、何らかのモノを購入しそこから得られる利用体験や何かをしてもらう(提供される)サービス利用体験を指します。モノの購入においては、企業は買ってもらうことに焦点を当て、多くのユーザが購入できるものや製品の利用シーンによる購買層をイメージし購入させる、してもらうことを考え製品開発を行っています。しかし、良いモノ悪いモノ高いモノ安いモノ、そして、製品が大量生産されていつでもどこでも同じようなものが購入でき一定の利用体験は容易になっています。

企業は、繰り返される競業他社との製品開発の競争だけではなく、開発される製品に付加価値を付け、その企業の製品を継続的に購入してもらおうと努力をしています。

これは、企業が顧客との新しい関係性を作るきっかけとなっており、付加価値の意味の変化になっています。例えば、アフターサービス拡充を目的に、より顧客一人一人の要望に応じたり、企業が利用シーンアイデア提供など様々なアプローチをしています。

この様な企業と顧客の関係性にイノベーションを起こすために見直し、その過程でビジネス自体を新しく定義する際に、サービスデザイン本質の考え方が生かされます。

サービスデザインが必要とされている時代の背景

  1. 顧客が自分の思い、価値観で選ぶ情報化時代を経て、顧客が自分で得ることができる、モノコトや他人の価値観(他人の利用体験)など、非常に多くの情報から自分で選択できる幅が拡がり、価値観の持ち方、または、何かに対しての感じ方に変化が起きていることを興味深くそして理解をしていく必要があります。
  2. コミュニケーションから生まれる多様性に対し、企業は注意を払わないといけません。SNSは企業が想像できないレベルのユーザが存在します。既存の顧客、見込み顧客、さらに未知の顧客も存在し、企業のマーケティングは今までの前提が通じません。
  3. VUCA時代では、あらゆる既存分野のモノコトの前提が通用せずビジネスモデル自体を新たな設計で再構築をしなければなりません。オープンイノベーション、ディスラプション、サステナビリティとビジネスのサービスをデザインする上で重要な思考の変化です。

サービスデザインの学際的定義

サービスデザインは、多くの分野に対して様々な方法論やツールを組み合わせて得ることができる学際的なアプローチで新しい思考法です。サービス+デザインのデザインの定義は、一意に決まっていません。「私のデザインは」、「私のデザインとは」の様に、様々な回答を許容している分野です。そのためにサービスデザインのアプローチも学際的には進化の発展途上と認識されています。共通の言葉で語りサービスデザインの基礎を作りつつも、時代やその時代の課題、未来への姿に応じてサービスデザインを進化させることがデザインそのものです。以下にコペンハーゲンのデザイン企業(CIID)の説明を紹介します。

サービスデザインは、有形・無形の各種メディアを組み合わせ活用し、さまざまな経験を通して優れた思考を生み出すことを目指す新興に分野です。小売・銀行・輸送・ヘルスケアなどの業界で応用すると、エンドユーザへのエクスペリエンスに大きな利益をもたらします。

実践的方法としてのサービスデザインは一般的に、ユーザに対してホリスティック(全体的)なサービスを提供するためのシステムやプロセスのデザインに役に立ちます。

この分野横断的な実践的手法には、デザイン、マネジメント、プロセス、エンジニアリングなどの分野で発展した数多くのスキルが組み合わされています。さまざまなサービスは遠い昔から存在し、あらゆる形態で提供されてきました。しかし、各種の新たなビジネスモデルで意識的に取り入れてサービスを編成すれば、それはユーザのニーズに寄り添うものとなり、社会の中に新しい社会的経済価値を創出していきます。つまり、サービスデザインは、知識主導型経済においての重要な役割を果たすことになるはずです。

Copenhagen Institute of Interaction Design/2008

サービスデザインとは生成AICopilot)の回答

サービスデザインは、顧客に提供するサービス全体の体験をデザインし、改善するプロセスを指します。このアプローチは、顧客が直接触れる製品やサービスだけではなく、店舗レイアウトやWebサイトの使い易さ、顧客サポートの質など関連する全て接点を考慮にいれます。

  • 「人間中心」利用者の実際のニーズや課題を発見し、それを解決するためのアイデアを創出し、プロトタイピングとテストを繰り返しながらサービスを改善していくプロセスを含みます。
  •    「共創」利用者との協力を重視し、多くのステークホルダーと連携しながらサービスをデザインします。
  •    「包括的」サービス提供者の背後にある組織やプロセスも考慮に入れ、サービス全体の構造をデザインします。

サービスデザインは、顧客にとって価値のある体験を提供し、顧客満足度を向上させロイヤリティを強化することで、ビジネスを成長させることを目指します。
(サービスデザインは、UXデザインやCXデザインとは異なり、サービス提供の背後にある組織をプロセスも考慮に入れる点で異なります)

サービスデザインの5つの思考

  1. ユーザ中心であること
    サービスは、ユーザ(顧客)が経験する立場に立ち考える
  2. 共創の勧め
    サービスデザインのプロセスにおいて、関係するステークホルダーと一緒に創る
  3. インタラクション志向
    関係する多くのインタラクションを繋ぎ、連続する流れを作り上げる
  4. 形・型に変わるもの
    形がなく、手に取ることができないサービスを、有形の物的要素を持ちユーザに対して可視化をする
  5. ホリスティック(全体的)な視点と視座
    サービスを取り巻く環境全体の視点と視座を持つ人と人、人とモノ、人と企業、そして企業と企業の間にある関係性の価値や質を理解していく必要があり、サブライチェーンのバリューチェン化の基本となります。

国内のサービスデザインの動向

近年注目をされている市民中心の社会形成を目指す地方公共団体・自治体向けのサービスデザインの紹介をします。

  1. 経済産業省   

    昨今、市場の成熟や社会のデジタル化等を背景に、顧客ニーズの高度化が進む中、顧客体験の向上がビジネスにおける重要課題となっています。そのため、
    経済産業省では望ましい顧客体験を持続的に提供するための仕組みとしてサービスデザインの普及に向けて研究会の発足や研究会での検討によりサービスデザインの手引き書および各種調査研究報告書を取りまとめています。(詳しい内容については省略します)

    ※経済産業省ホームページより引用し一部加筆

  2. デジタル庁  

    「誰一人取り残されない」デジタル社会の実現に向けて、様々な利用状況においてデジタル機器・サービスが利用されることを踏まえ、多様な利用者のニーズを効果的かつ効率的に達成できるよう利用者中心(人間中心)を原則とする行政サービスデザインに取り組んでいくことにより、誰もが、いつでも、どこでも、デジタル化の恩恵を享受できるようにします。

    ※デジタル庁ホームページより引用

上記の考えのもと、デジタル庁では、利用者視点(人間中心)を原則とする「政府情報システムのUI改善」、「アクセシビリティ支援」、「デザインシステムの構築」等の推進をしています。市民の窓口である行政の窓口、行政サービスのより良いサービスの提供していくために、市民サービスはもちろん、地方公共団体の業務運用や関連する制度やシステムの課題にも目を向けています。

また、現在全国の自治体で進めている、「地方公共団体の基幹業務システムの統一・標準化」では、業務のBPRやアプリケーションのUI改善、誰一人取り残されないデジタル社会実現のために、利用者中心の社会実装をするためにサービスデザインが非常に重要になっています。

Service Design Global Conference2023レポート

SDGC2023は、8割がパブリックセクターの参加者で、ここでも人間中心のデザインは、全世界のパブリックセクターの住民サービスで大事なキーワードの認識です。日本においても行政・自治体の使命として重要な価値であると共に方法論として習得することも重要で、サービスデザインのデザインの心得は、文化に至るまで言及して、デザインへのまなざしを考える良い機会になりました。以下は、出張報告書の抜粋です。

Service Design Global Conference2023

日程:10月5日(木)~10月6日(金)2日間
場所:Berlin, Germany, Radialsystem


(写真:Wikikipediaより)

アジェンダ

■開催目的

今年のサービス デザイン グローバル カンファレンスのテーマは「Catalyst for Change」です。私たちの世界は、加速度的に根本的で破壊的な変化を経験しています。イノベーション、デジタル化、技術と環境の変化は、私たちの生活と働き方を変え、業界を変革し、消費者の需要を再構築しています。サービス変革はこの変化の中心であり、人々、地球、そしてそれらを提供する活性化された組織に役立つ新しく革新的なサービス体験を通じて影響を体験できます。
サービス デザインは、変革の速度を高めるだけでなく、その品質と影響力も向上させる要素となり得るでしょう。 そのために、サービス設計者は、サービス設計を通じてどのように革新し、リードしていくかに常に挑戦する必要があります。その変化を動機付け、刺激、触媒になるためのイベントを開催します。

サービスデザインネットワーク(SDN)

2004 年に設立されたサービス デザインの専門知識を提供する非営利機関であり、サービス デザインにおける世界的な成長、発展、イノベーションの原動力となっています。国内および国際的なイベント、オンラインおよび印刷出版物、学術機関との連携を通じて、当社の会員ベースのネットワークは政府機関、企業、政府内の複数の役割を結びつけ、公共部門および民間部門におけるサービスデザインの影響力を強化します。私たちのネットワークは、知識の共有、コラボレーション、交換に焦点を当てた、グローバルでオープンなネットワークです。

サービスデザインはサービスを設計する実践です。
総合的かつ高度に連携したアプローチを使用して、サービスのライフサイクル全体を通じてサービス ユーザーとサービス プロバイダーの両方に価値を生み出します。
実際には、サービス デザインは、人間中心の視点を使用して、サービスの提供を推進するプロセス、テクノジー、およびインタラクションを調整するのに役立ちます。
今日のサービス設計は複数のセクターにわたって適用可能であり、民間部門と公共部門の両方に戦略的および戦術的な目標を達成するのに役立ちます。

プログラムの一部を抜粋

■Keynote talk: Do No Harm Framework for Design

デザインするシステムや人々に対する責任を自覚し、Do No Harm「害をあたえない」のデザインについて「善をなすか、害をなすか」という2つのアプローチを持ち続ける。意図は、より広い文脈を理解し、社会、経済、環境の社会構造に影響を与えるかもしれない潜在的な悪影響を軽減することである。

本講演では、私たち全員が生活し、働いている、デザインによる危害の状況を探るとともに、デザイン内、そしてデザインのためのDo No Harmの提唱を解説。


Do No Harm Fremework


ヒポクラテスの誓いであり、「先例を語り、現在を知り、
未来を予言することができる」ことである。

■How to build inclusive organization and teams for better ( public ) service

チームにおける多様性を尊重することは、変化と創造性の最大の動機付けのひとつ。人間中心のデザイン・プロセスは、多くのデザイナーにとって、様々な社会文化的背景や組織的背景、異なるレベルの専門知識や経験を持つ人々を結びつけるためのツール。しかし、一緒に仕事をする人たちや、デザインをする人たちの両方において、多様な人たちの割合は十分ではない。だからこそ、不公正を克服し、システマティックなレベルで権力を再考するために、インクルーシブなデザイン文化の構築がこれまで以上に必要とされている。

デザイナーは、インクルーシブを育むことにさらに意図的に取り組むべき時で、講演では、より良い協働を望む人々にインスピレーションを解説。


包括的人間中心デザイン


自分の(偏見)を理解


様々なデザインアプローチ

■Creating a Service Design Culture for Good

デザインプラクティスが成熟した企業では、サービスデザイナーは組織全体に存在し、サービスデザインの原則はサービスデザイナー自身を越えて実践される。サービスデザインは、顧客体験、オペレーショナル・エクセレンス、分野横断的なコラボレーションやイノベーションに多大な影響を与える。講演では、文化としてのサービスデザインアプローチを解説。





サービスデザインアプローチ

(写真:筆者撮影)

全体を通して感じたことは、通信分野のテクノロジー系のイベントとは違い、文化や歴史、生き方(生き様!)を丁寧に説明しており、デザインそのものの文化的側面の説明がされていました。キーノートの「Do No Harm」は害を与えないデザインの必要は、デザイナーの成り立ちから今に至るまでの価値観の再確認(参加者全員に対して)をしているように思えました。

私たちは創造をする時に、今やっていることをゼロクリアーして考えていくことがありますが、デザインはそれ自体を否定することから始めると言っています。否定して新しいことを試みる、繰り返し試みることで、より良いモノに変えていく。作ったら終わりではなく、より良くする姿勢は見習うべき考え方です。

まとめ

新しいものを見て、感じることは多々あります。しかし、それだけで、購入したり経験をしたりと、心を動かされることが少なくなってきている気がします。しかし、私たち自身が、何故、それを作り出したのか?どうして、そういう形、色にしたのか?作者は何故その表現にしたのか?を突き詰める興味を持つことで、自分の中で新しい生態が生まれるように、心動かされる出来事が増えるかもしれません。何事に対しても突き詰めることは大切なことであると同時に作り手と見えないコミュニケーションが生まれることを感じながら、「何故・・したのか」を試すことで、自分なりの新しい利用体験を感じ特別感を得られるかも知れません。

サービスデザインされている提供側の取り組みに対して、受け側の我々の姿勢も変化していくことで、より良い持続性が生まれることを信じ、まとめとします。