ローカル5Gとは、最新通信規格の5Gを独立したエリアで利用できる通信システムのことです。日本国内においても、製造業や建設業、農業などさまざまな業種で活用されています。ローカル5Gの導入を検討する際には、メリットだけではなく、デメリットもしっかりと把握しておかなければなりません。本記事では、ローカル5Gの概要やメリット・デメリット、業界ごとの活用例について解説します。
はじめに、ローカル5Gの概要、パブリック5Gやプライベート5Gとの違いについて解説します。
ローカル5Gとは、企業や自治体が独自の5G通信システムを柔軟に構築できる通信システムのことです。自社の建物や敷地内において、局所的に5Gのネットワーク環境を構築できます。
ローカル5Gは、5Gの「高速大容量」「高信頼・低遅延通信」「多数同時接続」という特徴を活かして、自社のニーズに適したネットワーク環境を柔軟に構築できることが魅力です。ただし、無線免許の取得やネットワーク環境の整備、エリアの調整など、手間がかかる作業を事前に行わなければなりません。
パブリック5Gは、大手の通信事業者が提供する5Gネットワークです。ローカル5Gとの大きな違いとして「使用できるカバーエリア」が挙げられます。パブリック5Gは、大手の通信事業者により整備が完了しているエリアでしか使用できません。それに対して、ローカル5Gは、パブリック5Gがないエリアでも使用可能です。ローカル5Gは通信業者に依存することなく、ニーズに応じた5Gの通信ネットワークを柔軟に構築できるメリットがあります。
プライベート5Gとは、通信事業者が持つ周波数帯を用いて企業や自治体に必要な5Gネットワークを提供するサービスを指します。企業独自の5Gネットワークを構築できる点はローカル5Gと共通していますが、「免許取得が必要であるか」の違いがあります。プライベート5Gは、通信事業者が環境構築や保守運用を行う仕組みであるため、企業や自治体の免許取得は必要ありません。一方ローカル5Gの場合、無線局の免許取得が必須とされています。
ローカル5Gを導入することで、企業はさまざまなメリットを享受できます。この章では、ローカル5Gの主なメリットを3つ紹介します。
ローカル5Gは、企業のニーズや課題解決に適したネットワーク設計を柔軟に行えます。たとえば、超高精細な映像を送付するケースでは、5Gの「高速大容量」という特徴を活かし、下りよりも上りを優先した設計に変更することが可能です。
他にも「高信頼・低遅延通信」の特徴を活かして遠隔地でのロボット操作や遠隔治療を行ったり、「多数同時接続」の特徴を活かして企業内のパソコンやスマートフォン、機械など複数のデバイスへの同時接続を実現したりするなど、さまざまな分野での活用が期待できるでしょう。
外部環境に左右されず運用できる点もローカル5Gの大きなメリットです。日常生活のなかで、通信障害や災害などの影響により通信速度が遅くなったり、接続できなかったりすることはよくあるでしょう。独自のネットワークを利用するローカル5Gであれば、通信障害や災害が起こった際でも影響を受けにくく、快適に利用できます。
安定した通信は、生産性を下げずに安定した作業を継続できることにつながります。たとえば、工場・製造などの分野では、機械のパフォーマンスを一定に保ち、外部環境に左右されずに安定した生産を実現できるでしょう。また、医療分野では、遠隔治療などリアルタイムな映像共有が求められる場面でも、周囲の電波などの影響を受けずに処置が行えるメリットがあります。
ローカル5Gは、独自のネットワークを構築し、外部エリアには電波が届かないように設定できます。セキュリティに強い環境下でネットワーク運用を進められるため、情報漏洩のリスクを低減できるでしょう。
ローカル5Gには多くのメリットがある一方、デメリットも存在します。この章では、ローカル5Gのデメリットについて解説していきます。
ローカル5Gの導入・運用には、莫大なコストがかかります。設置する環境や接続台数によってコストは変動しますが、ネットワークの構築作業に数千万~数億円のコストが発生するケースも珍しくありません。
加えて、ローカル5Gの導入後も、電波利用料などのランニングコストがかかります。ローカル5Gの電波利用料は以下のとおりです。
参考:総務省「ローカル5Gの普及展開に向けて」p14
構築作業に関わるコストを準備できるか、長期的な運用コストを上回るメリットがあるのかなどを事前に考慮したうえで、導入を検討する必要があるでしょう。
ローカル5Gを利用するためには無線局の免許が必要であり、手続きや書類準備に多くの手間や時間がかかります。免許申請は常時受け付けており、標準的な処理期間は約1ヶ月半です。通常業務の合間にうまくスケジュール調整を行ったうえで、準備を進めなければいけません。
無線免許の申請には、以下の書類が必要となります
自社での申請や準備に時間が取れない場合、外部のベンダーなどに免許申請を委任することも可能です。ただし、どちらの方法を選択するにしても、事前準備や申請の処理にかかる期間を考慮し、余裕をもって進めていきましょう。
ローカル5Gは、日本国内でもさまざまな業界で導入されています。この章では、ローカル5Gの活用例を5つ紹介していきます。
はじめに、農業でのローカル5Gの活用例を紹介します。
【課題】
日本の農業は、高齢化や新規就業者の減少による「労働力不足」が大きな課題といわれています。また、果樹農業においては、1日に何度も行う必要がある農薬散布や除草作業によって、作業者の健康への影響も懸念されているのが現状です。
【実証概要】
ローカル5G環境を傾斜地の多い醸造用ぶどう果樹園に構築して、草刈用のロボットの遠隔操作やスマートデバイスでの遠隔指導、病虫害を予兆するためのAI判定などの実証を行いました。また、傾斜地ではEVロボット4台の遠隔監視制御を同時に行い、遅延1秒以内での緊急停止操作や複数拠点でのEV制御の受け渡しを30秒以内に行えることを確認しました。(ローカル5Gの「低遅延通信」という特徴を活かせば、このように高精細な映像をリアルタイムに伝送できます。)
ローカル5Gの活用により、農業従事者の高齢化や働き手不足、健康被害などの課題解決にも寄与できることを確認できた事例です。
参考:総務省「令和3年度 「課題解決型ローカル5G等の実現に向けた開発実証」実証事業 成果概要」p4
続いて、工場でのローカル5Gの活用例を紹介します。
【課題】
都市ガスの製造工場では、事故の防止や保安対策を徹底しているものの、事故撲滅に向けた取り組み・対策が求められています。
【実証概要】
安全レベルの向上、巡回業務の効率化・合理化を目的として、ローカル5G環境を敷地内に構築し、以下の実証を行いました。
AIでの遠隔監視では、ガス漏れなどの異常検知にかかる点検を、1か所につき10秒以内で完了できたほか、設備劣化やガスの漏洩箇所の可視化も確認できました。遠隔作業の支援では、現場の映像を中央制御室へリアルタイムで共有することにより、中央制御室からの映像を見ながら現場作業員の支援を行いました。ローカル5Gを活用して、走行ロボットによる点検と遠隔作業支援を行えば、安全レベルの向上や作業員の負担軽減につながることを証明した事例です。
参考:総務省「令和3年度 「課題解決型ローカル5G等の実現に向けた開発実証」実証事業 成果概要」p9
続いて、港湾での活用例を紹介します。
【課題】
港湾では、船舶着岸時の衝突事故や停泊船の安全確保、管理業務の労働力不足といった課題がありました。
【実証概要】
港湾内航行中の船舶に対する操船支援の提供を行い、高精細な映像とAIを活用して、停泊中の船舶の異常検知や着岸確認などの自動化を実施しました。
操船支援の提供については、船舶の映像や港に設置した4Kカメラの映像を基に船舶の位置情報などをダッシュボードに表示し、港湾内監視室と情報を共有できました。AI映像解析では、見落としや記録誤りの改善、職員が現場に駆けつける回数の削減などを実現しています。ローカル5Gが、操船の安全性向上と業務効率化にも役立つことを確認できた事例です。
参考:総務省「令和3年度 「課題解決型ローカル5G等の実現に向けた開発実証」実証事業 成果概要」p13
続いて、鉄道での活用例を紹介します。
【課題】
鉄道の保守業務では、鉄道インフラの老朽化や人材不足などの課題に直面しており、より安全な鉄道運行が求められていました。
【実証概要】
鉄道駅の屋内ホームや線路などにローカル5GとAI解析による車両検査の自動監視システムを構築し、車両台車の遠隔監視の高度化・実装を図りました。この実証を通じて、ローカル5Gが鉄道保守業務の人材不足解消や鉄道運行の安全性向上に寄与することを確認できました。
参考:総務省「令和3年度 「課題解決型ローカル5G等の実現に向けた開発実証」実証事業 成果概要」p16
最後に、スマートシティでの活用例を紹介します。
【課題】
大都市近郊のベッドタウン(都心へ通勤する人々の住宅地を中心に発展した衛星都市)では、空き家の被害防止や、認知症による徘徊の見守りなどが求められていました。しかし、警備する人が不足していることや、固定式カメラのみでは監視範囲が限定的になってしまうことが課題でした。
【実証概要】
ローカル5G環境を大学跡地のモデル地域に構築して、自動運転車両等移動体に搭載のカメラを活用したAI顔認証やAI画像認識による、地域の見守りに関する実証を行いました。移動体カメラによるAI画像解析を活用して、人物・物体、顔、車両ナンバーなどの検知距離を計測したところ、人物・物体では14メートル、顔・車両ナンバーは7メートルと5メートル以上の距離であっても認識可能であることが判明しました。地域の見守りにおける人手不足や監視範囲の制約といった課題に対しても、ローカル5Gの活用が有効であることを確認できた事例です。
参考:総務省「令和3年度 「課題解決型ローカル5G等の実現に向けた開発実証」実証事業 成果概要」p21
ローカル5Gを導入することで享受できる主なメリットは以下の3つです。
ローカル5Gは、日本国内だけではなく海外でも導入する企業が増えており、さまざまな業界で活用されています。たとえば、工場では「巡回業務の効率化・合理化」が可能となり、農業では「遠隔操作の支援」などを行えます。このように業界特有の課題やニーズに合わせて活用できる点が、ローカル5Gの大きな魅力だといえるでしょう。
ローカル5Gを導入する際には、無線免許の取得やコスト面など、考慮するべき点はあります。しかし、それ以上のメリットを享受できる可能性が高いです。適切な方法でローカル5Gを活用すれば、企業や地域が抱えている課題を解決できるでしょう。