ローカル5Gとは、最新通信規格の5Gを独立したエリアで利用できる通信システムのことです。総務省から基本コンセプトが公表されており、国内・海外問わずさまざまな目的で活用されています。ローカル5Gを活用すれば、地域・業界特有の課題解決も実現できるでしょう。本記事では、ローカル5Gの最新導入事例を業種別に紹介します。
はじめに、ローカル5Gの概要と特徴、Wi-Fiとの違いについて解説していきます。
ローカル5Gとは、地域の企業や自治体等が自社の建物内や敷地内などに「スポット的に構築できる5Gシステムのネットワーク」です。大手通信キャリアが展開している5Gとは異なり、柔軟にネットワーク環境を整備できる点が特徴です。地域や業界特有の課題解決を目的として活用されています。
ローカル5Gは用途に応じて、5Gの3つの特徴(高速大容量/超低遅延/多数同時接続)からどれを最大限に活用するか、柔軟に変更できることが特徴です。ここでは、それぞれの特徴に合わせたユースケースを紹介します。
※参考:総務省「ローカル5G導入の手引き(令和4年3月版)」p9より
ローカル5GとWi-Fiは、どちらも高速通信が可能な点は共通していますが、セキュリティレベルや接続端末の制限といった部分で違いが見られます。ローカル5Gの場合、独自のネットワーク環境内で高いセキュリティを維持でき、接続端末の制限も可能です。一方でWi-Fiの場合は、電波漏洩などのリスクがあり、接続端末の制限は非常に難しくなります。
また、通信の安定性に関しては、ローカル5Gのほうが優れています。ローカル5Gでは、電波を占有するため他の電波と干渉するケースはなく、移動によって切れることもほとんどありません。Wi-Fiの場合は、他の電波を干渉して通信が不安定になりやすく、移動中に電波が切れるおそれもあるでしょう。
ここでは、ローカル5Gのメリット・デメリットについて解説します。
ローカル5Gのメリットは、独立した5Gネットワークによって、高品質で安定した通信が可能な点です。無線局免許の取得者のみがアクセスできる免許周波数帯を使うため、キャリアによるパブリック5Gがない地域でも、安定したネットワーク環境を構築できます。また、セキュリティレベルが高く、接続デバイスを制限できることも利点です。許可されていない端末のアクセスを防げるため、セキュアな環境で自社に適したネットワーク環境を構築できるでしょう。
特に大規模な建設現場や工場、スタジアムなどでも他の電波の影響を受けずに、広範囲で安定したネットワーク環境を利用できることは大きな魅力です。多くの機器との同時接続も可能なため、業務効率化にもつながります。
ローカル5Gの最大のデメリットは、初期費用・運用コストがかかる点です。5Gネットワークの構築費用に加えて、国が定めている固定電波利用料も発生します。また、ローカル5Gを利用するためには、国が指定した無線局免許が必要です。無線免許の取得は、書類の提出や審査など段階を踏んで行う必要があるため、利用するまでのハードルは高いといえるでしょう。
ローカル5Gにはこのようなデメリットがあるものの、多くのメリットを享受できることから、さまざまな業界で活用が進んでいます。以降の章では、ローカル5Gの活用事例を業界別に紹介していきます。
農業でのローカル5G導入事例を紹介します。
施設園芸農業では、高齢化や新規就業者の減少による労働力不足に直面していました。特に観光農園では、コロナ禍に伴う来園者減少によって収益の減少、生産者による収穫作業時間の増大が大きな課題でした。
農場内にローカル5G環境を構築し、高精細4Kカメラを搭載した自立走行型ロボット及びAI画像解析によるイチゴの病害検知や熟度別数量把握、ハウス内の密検知・顧客誘導の実証を実施しました。その結果、イチゴの病害検知は検知率85%(システムを2回以上稼働した場合)となり、熟練者と同程度の見回りが可能であることを証明できました。ローカル5Gとロボット、AIなどの最先端技術を活用し、生産性の高い農業を実現した事例といえるでしょう。
※参考:総務省「令和3年度「課題解決型ローカル5G等の実現に向けた開発実証」実証事業 成果概要」p6より
林業でのローカル5Gの導入事例を紹介します。
林業の分野においては、他産業と比較して高い事故率や安全対策の不十分さ、ICT化・IoT推進の遅れといった課題がありました。
実際に間伐作業を行っている山間地にローカル5G環境を構築し、高精細カメラとAIを活用した作業員の危険予知、丸太運搬の作業車両の遠隔操作に関する実証を行いました。作業員の危険予知に関しては、ヘルメット未着用時20m・作業禁止エリアへの侵入50mの範囲で検知率80%以上を達成しました。また、作業車両の遠隔操作に関しては、現場作業員1名分の移動時間等で1日あたり315分の工数削減に成功しています。ローカル5Gを活用したことより、管理者への即時通知や迅速な対応が可能となり、山間部林業現場の安全性向上に寄与しました。
※参考:総務省「令和3年度「課題解決型ローカル5G等の実現に向けた開発実証」実証事業 成果概要」p7より
工場でのローカル5G導入事例を紹介します。
工場では、熟練技術者の人材不足による生産現場の停滞、非熟練者への技術伝承の遅れといった課題がありました。特に中小企業では導入コストが障壁となり、スマート工場化に遅れが生じていたようです。
ローカル5G環境を工場敷地内に構築し、AIを用いた工場設備の異常検知、完成した部品の検品作業やスマートグラスを用いた遠隔指導、作業支援の実証を行いました。工場設備の異常検知に関しては、不良品発生率は28%の削減効果を確認し、検品作業に関しては、一次検品から二次検品確定までの平均滞留時間は31%の削減効果を確認しました。低コストかつ高品質な共有型のローカル5Gを活用した結果、中小企業の工場における技術伝承と生産性向上を実現した事例です。
※参考:総務省「令和3年度「課題解決型ローカル5G等の実現に向けた開発実証」実証事業 成果概要」p10より
空港・港湾でのローカル5G導入事例を紹介します。
航空業界では、空港機能拡張や少子高齢化などに伴い、将来的なドライバ人材不足が懸念されていました。
空港ターミナル間にローカル5G環境を構築し、ターミナル間連絡バスにおいて遠隔監視による自動運転に向けた実証を行いました。実証の結果、遠隔監視による自動運転(レベル4相当)の実現及び将来的なドライバ不足解消への寄与を確認できました。今後も実証を継続していき、国内の空港制限区域における自動走行の実現に向けた取り組みと連携して、令和7年の自動運転レベル4相当の導入を目指しています。
※参考:総務省「令和3年度「課題解決型ローカル5G等の実現に向けた開発実証」実証事業 成果概要」p12より
鉄道でのローカル5G導入事例を紹介します。
安全性確保が求められる鉄道インフラや車両のメンテナンス業務に関しては、少子高齢化による就業者不足が課題とされてきました。
駅構内にローカル5G環境を構築し、車載モニタリングカメラとAIを活用した線路巡視業務の高度化を実施しました。また、高精細カメラとAIを活用した車両ドア閉扉判断の高度化の実証も行い、鉄道運行業務の省人化・自動化を実現できました。ローカル5Gを有効に活用すれば、鉄道運行業務の省人化・自動化にも寄与できることを証明した事例です。
※参考:総務省「令和3年度「課題解決型ローカル5G等の実現に向けた開発実証」実証事業 成果概要」p15より
建設業でのローカル5G導入事例を紹介します。
建設業では、少子高齢化による就業者不足や、常時ハザードの把握が必要であるという課題がありました。
高速道路上空の土木建設現場に、ローカル5G環境を構築したうえで実証を行いました。超高精細映像を活用したリアルタイムモニタリング技術を用いて、建設現場のリスク発見・回避の早期化・遠隔化に関する実証を行った結果、8K映像を用いたリアルタイムモニタリングの検出精度は適合率94.4%を達成しています。AI検出による作業員や建設機械の作業状況把握効果も、現場関係者の91%が高く評価しました。ローカル5Gによって、建設現場における安全性向上や管理業務の効率化を実現した事例です。
※参考:総務省「令和3年度「課題解決型ローカル5G等の実現に向けた開発実証」実証事業 成果概要」p18より
スマートシティのローカル5G導入事例を紹介します。
大型複合施設でのイベント開催においては、警備品質の向上や感染予防対策の実施、イベントのハイブリッド化などが必要でした。
ローカル5Gを活用した安全・安心なハイブリッド型イベントに向け、遠隔ロボット監視システムや混雑検知システム、遠隔同期演奏システム、ロボットによる混雑アナウンスシステムなどの実証を行いました。混雑検知システムでは、4Kカメラ映像により85%の高い検知率を達成し、遠隔同期演奏システムでは、許容範囲内での遅延時間内で同期演奏を実現できました。ローカル5Gを活用すれば、来訪者やイベント主催者にとって安全・安心なイベントを開催できる可能性が高いことを確認できた事例といえます。
※参考:総務省「令和3年度「課題解決型ローカル5G等の実現に向けた開発実証」実証事業 成果概要」p20より
文化・スポーツの分野でも、ローカル5Gの活用は進められています。文化・スポーツでの導入事例を紹介します。
コロナ禍のスタジアム運営では、来場者数の減少や魅力的なコンテンツの不足、収入の伸び悩みといった課題がありました。
スタジアム内にローカル5G環境を構築し、360°視点のカメラシステムや旋回カメラシステム、サイネージシステム、LED表示装置システムの実証を行いました。360°視点のカメラシステムでは、最大12台のカメラ映像合成に成功しています。また、オンラインでサービス環境を構築し、デジタルトレカの販売や応援・ギフティングも行いました。デジタルトレカやオンラインギフティングが、自由視点の映像と連携させることで、サービスの価値向上に大きく貢献することを確認できた事例です。
※参考:総務省「令和3年度「課題解決型ローカル5G等の実現に向けた開発実証」実証事業 成果概要」p22より
ローカル5Gは、独立した5Gネットワークを構築し、セキュアな環境で安定した通信を実現します。さまざまな業界でローカル5Gの導入が進められており、5Gの高速大容量、超低遅延、多数同時接続という3つの特徴を活かし、業界特有の課題解決に大きく貢献します。ローカル5Gの導入には多額の費用がかかるほか、無線免許の取得などの手間もありますが、導入することで長期的に多くのメリットを享受できるでしょう。