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近年、都市開発に関する情報のなかで「スマートシティ」という言葉を耳にすることが増えました。日本国内では、人口減少や都市への人口集中、少子高齢化など様々な課題が顕在化しており、スマートシティを実現する取り組みに注目が集まっています。
スマートシティを実現するためには、5GやIoT、AIといった最新技術の利活用が欠かせません。本記事では、スマートシティが注目される理由や必要な技術、5G・ローカル5Gを活用したスマートシティの事例について解説します。
スマートシティとは
はじめに、スマートシティの概要や定義、国土交通省による「スマートシティガイドブック(概要版)」の基本コンセプトについて解説していきます。
スマートシティの概要
スマートシティとは、国土交通省によって「都市の抱える諸課題に対して、ICT等の新技術を活用しつつ、マネジメント(計画、整備、管理・運営等)が行われ、全体最適化が図られる持続可能な都市または地区」と定義されています。内閣府・総務省・経済産業省・国土交通省を中心に、スマートシティは国全体で推進されている取り組みの一つです。
スマートシティを実現させるためには、5GやIoT、AIなどの最新技術を有効に活用する必要があります。従来のスマートシティの取り組みは、地域の人口減少やエネルギー不足などの問題を各地域で「個別に解決する」ことが一般的でした。しかし近年では、様々な最新技術を用いて交通や医療、土地、交通などの複数の課題を「横断的に解決する取り組み」が主流となっています。
※参考:国土交通省「スマートシティに関する取り組み」
スマートシティの基本コンセプト
内閣府・総務省・経済産業省・国土交通省が合同で取りまとめたスマートシティガイドブック(概要版)(※)では、「3つの基本理念」と「5つの基本原則」を基本コンセプトとして掲げています。
3つの基本理念
- 市民(利用者)中心主義
- ビジョン・課題フォーカス
- 分野間・都市間連携の重視
5つの基本原則
- 公平性、包摂性の確保
- プライバシーの確保
- 相互運用性・オープン性・透明性の確保
- セキュリティ・レジリエンシーの確保
- 運営面、資金面での持続可能性の確保
上記の基本理念にあるとおり、スマートシティの実現は、その地域に住む「市民」の参画が欠かせません。自治体や企業のみならず、住民自らが積極的に関わることができる仕組みづくりや働きかけが求められています。5GやIoT、AIなどの最新技術を活用して、自治体や企業、住民が一丸となり、都市が抱える様々な課題の解決や都市の持続可能性を促進することが大きな目的です。
また、スマートシティを実現できれば、都市ならではの課題解決だけではなく、様々な分野で暮らしやすい社会を実現できるでしょう。たとえば、自動運転の技術進歩により都市の渋滞問題を解決したり、AIによる天候予測やシミュレーションによって、最適な災害対策を講じたりすることができます。観光などの分野でキャッシュレス化を進めていけば、地域活性化にもつながるでしょう。
※参考:国土交通省「スマートシティガイドブック(概要版)」
スマートシティが注目されている理由
スマートシティ実現は、日本だけではなく世界各国で推進されている取り組みです。この章では、スマートシティが注目されている理由について解説します。
人口の一極集中が進むことで様々な問題が発生する
国際連合のデータによると、現在の世界の都市人口(都市地域に住む人口)は約38.8億人で、全人口の約2分の1を占めています。しかし、2050年には約63.4億人を超え、全人口の約3分の2が都市に居住すると予測されています。都市化が進むことで起こるおもな問題は以下のとおりです。
- 渋滞の発生や乗車率の増大
- 人口集中によるエネルギー消費の増大
- 家電や自家用車から排出される二酸化炭素
- インフラ未整備地区の貧困層の集中
都市部への人口集中が進めば、それだけエネルギー消費も多くなるため、限りあるエネルギーをいかに効率よく使っていけるかが大きな課題となっています。こうした都市部が抱える課題を解決して、より良い生活を維持・向上できる「持続可能な都市」を実現するための手段として、スマートシティは各国から注目されているのです。
また日本は、都市部への人口集中に加えて、少子高齢化や都市型災害など、深刻な問題を多く抱えています。環境や地域の住民に配慮しつつ、これらの問題を解決するためには、5GやIoT、AIのような最新技術の活用が欠かせません。
参考:国際連合「持続可能な都市を構築するために ~JICAの新たな挑戦~」
新しい社会のあり方「Society5.0」を実現させる
DXが推進されるなか、日本政府は新しい社会のあり方「Society5.0」(※)を掲げています。Society5.0とは、「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)」と定義されています。
Society5.0で目指している社会は、5GやIoT、AIなどの技術を活用して、人間がより豊かな生活を送れる社会です。人間が中心となり、現実空間での様々な機器やクラウドサービス、AI、ビッグデータなどを融合させた取り組みが期待されています。このSociety5.0を実現させる場所としても、スマートシティは注目されています。
※参考:内閣府「Society 5.0とは」
スマートシティを実現するために必要な技術
この章では、スマートシティを実現するために必要な技術について詳しく解説します。
通信ネットワーク技術
必要なデータを必要な場所へ即座に送信する、機器やセンサーに対する情報伝達や制御を支えているのが、通信ネットワーク技術です。様々なネットワーク技術がありますが、とくに注目されているのが超高速・多数接続・超低遅延の強みを持つ5Gです。5Gは従来の通信技術に比べて性能が非常に高く、大容量のデータの送受信もスピーディーに行えます。映像のタイムラグなども格段に少なくなりました。
また、5Gの多数接続の特徴を活かし、車や家電、産業用設備、様々な日用品などをネットワークで接続するIoTも普及しました。IoTの普及は、機器や設備の状態を確認する作業の省人化や、従来では取得が難しかった多種多様なデータの取得を可能にします。スマートシティを実現するには、IoT化(身の回りにあるパソコンやスマートフォン、家電、機器などがインターネットに接続され、相互通信できる状態のこと)が必須となるため、5Gの活用は不可欠といえるでしょう。
分析・予測技術
AIなどによるビッグデータの分析や予測技術も、スマートシティを実現するために必要です。IoTによって様々な機器と接続してデータを収集したとしても、これらのデータを有効に活用できなければ意味がありません。
AIは、「ビッグデータ」と呼ばれている収集した大量のデータをデータベースに蓄積して、様々な観点で分析できます。あらゆるパターンでのデータの組み合わせを自動で行い、「使えるデータ」を保存していきます。
膨大かつ複雑なデータを相互に分析できる技術や解析技術によって、様々な予測を行えるようになるでしょう。たとえば、利用者数や人の流れを考慮した施設の整備や、老朽施設のメンテナンス作業の効率化、渋滞予測による信号の切り替え調整などが可能となります。
データの可視化技術
AIによって「使えるデータ」を蓄積したら、そのデータを可視化する作業が必要です。データには様々な種類や形態がありますが、誰もがデータを視覚的に認識・理解し、有効に活用できるように整えなければなりません。
建築物そのものの計画・調査・設計段階から3次元モデル化できるBIM(Building Information Modeling)やCIM(Construction Information Modeling)といった技術を活用すれば、建築物の構造や設備、コストといった情報の一元管理が可能です。可視化した情報をもとに、業務改善や新しい施策の立案なども行えるでしょう。
また、スマートシティ実現を進めていくためには、どのような街や建物になるのか、住民と完成イメージを共有することも非常に大切です。可視化技術として代表的なVR(Virtual Reality=仮想現実)やMR(Mixed Reality=複合現実)などの技術を活かして、複雑なデータを視覚的・感覚的に理解しやすく提示すれば、まちづくりに関する合意形成の円滑化が期待できます。
上記を活用した新たな応用技術
これまでに紹介した通信ネットワーク技術と分析・予測技術、データの可視化技術を応用すれば、スマートシティ実現に向けてできることの幅が広がります。その代表例が「自動運転」です。完全自動運転化が実現すれば、都市部の交通量減少や渋滞の緩和、地方に住んでいる人の移動手段の確保、物流業界でのドライバー不足の緩和など、移動に関わる様々な課題を解決できる可能性が高まります。
また近年では、ドローン(無人航空機)の活用範囲も広がっています。GPS情報や加速度センサーなどを活用して、事前に飛行経路を設定すれば、自律的な飛行が可能です。さらに、普段人が行っている作業をロボットに代替させる取り組みも多くの企業や自治体で広がりを見せています。たとえば、工場や建設現場における資材の搬送や柱の溶接作業をロボットに行わせたり、特定のエリアの警備や清掃、店舗案内などをロボットに任せたりすることで、業務効率化・省人化を図る実証実験が進められています。
これらの最新技術をスムーズに取り入れるためには、自治体と企業、技術に対する有識者が継続的に意見交換を行い、技術に関する最新動向を把握することが重要です。
参考:国土交通省都市局「スマートシティの実現に向けて【中間とりまとめ】」
5G・ローカル5Gを活用したスマートシティ実現に向けた事例を紹介
5G・ローカル5Gを活用したスマートシティ実現への取り組みは、日本各地で行われています。この章では、スマートシティ実現に向けた5G・ローカル5Gの活用事例を3つ紹介していきます。
日本最大級のローカル5G環境を大学内に整備
東京の某都立大学では、ローカル5G環境の構築を行い、新規帯域であるSub6(4.7GHz帯)を主体とした日本最大級のローカル5Gネットワーク環境を大学内に整備しました。ローカル5Gの構築後、屋外を含む広大なキャンパス内のどの場所からでも様々な研究や実験が行えるようになりました。現在は、ローカル5Gを活用した研究や実証実験に取り組みながら、スマートシティ実現による地域課題の解決やまちづくり、社会的・公共的価値の創造を目指しています。
5Gを活用した自動配送ロボットの公道配送実証を実施
国内有数の重工業メーカーを含む7つの企業・団体は、2022年1月から約1か月間、西新宿エリアにて、自動配送ロボットが5Gを活用して公道を走行し、ラストワンマイル(お客様に商品やサービスを届ける物流の最後の区間)の配送を行う実証実験に取り組みました。日本国内では、高齢者の人口増加やドライバー不足が大きな課題となっており、ラストワンマイルの配送効率化が求められていました。また、東京都内の5Gを活用したサービス事業の早期実用化も、この実証実験の狙いです。
7つの企業・団体は、実証実験後も継続して地域活性化のためのシナリオ立案や、自動配送ロボットを活用した新しいサービスの検証を行い、ラストワンマイルを取り巻く社会課題の解決を目指しています。さらに、人・モノが自由自在に移動できる新たなスマートシティの実現に向けて、自動配送サービスプラットフォーム事業の構築も検討中です。
5Gを活用した「街と人を繋ぐ」実証実験
最後に紹介するのは、西新宿にて5Gを活用したスマートシティの実証実験「西新宿スマートシティプロジェクト」の事例です。このプロジェクトでは、デジタル技術を活用して都民が質の高い生活を享受できる「スマート東京」の実現を目標としています。3つのプロジェクトチームが様々な企業と共同して実証実験を行いました。
一例として、個人の趣味・趣向とエリア情報を組み合わせたアプリ施策が挙げられます。アプリから得られた情報をもとに「飲食店内の混雑情報」や「交流を促進するマッチング用プラットフォームを提供するサービス」「AR(拡張現実)を用いた標識サービス」などを提供する施策です。このような最新技術を活用した実証実験は都内だけではなく、日本各地で行われています。
まとめ
スマートシティの実現は、国全体で推進されている取り組みです。日本は、都市部への人口集中や少子高齢化など、深刻な問題を多く抱えています。これらの問題を解決し、スマートシティを実現させるためには、5GやIoT、AIなどの最新技術を有効に活用しなければなりません。とくに、様々な機器との多数接続を可能にする5Gは、スマートシティ実現に不可欠なIoT化に大きく寄与するでしょう。