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ローカル5Gは2019年に制度化され、移動体通信事業者の商用サービス開始に先駆けて登場しましたが、当初は使用できる周波数幅が狭いことが課題でした。その後、2020年12月にローカル5Gで使える周波数幅が大幅に増加し、現在ではさまざまな分野で実用に向けた研究開発が進められています。本記事では、ローカル5Gで利用可能な周波数、周波数帯の特徴、周波数の共用条件について解説します。
ローカル5Gの概要
5Gとは、第5世代移動通信システムの略称です。1980年代に第1世代が登場してから進化を重ね、2020年に移動体通信事業者によって全国向けの第5世代移動通信システムの商用サービスが開始されました。5Gの特徴として、高速・大容量、超低遅延、同時多数接続の3つが挙げられます。
4Gが、人と人とのコミュニケーションを行う生活基盤のネットワークであるとすると、5Gは、IoTであらゆるモノと人がつながる時代の、産業・社会基盤のネットワークとしての役割があります。
4Gと5Gの特徴と利用が期待される場面は、以下の通りです。
4G
- 生活基盤のネットワーク
- スマートフォン、コンシューマー向け
- 広範囲で高速通信を実現する
5G
- あらゆる産業・社会基盤のネットワーク
- 企業・自治体向け
- あらゆるモノ・人を無線で接続する(IoT)
- カメラやセンサーなど多数の機器を同時に接続する
- 低遅延で機器を遠隔操作するなど
以下では、ローカル5Gの特徴やパブリック5Gとの違いについて解説します。
ローカル5Gとは
ローカル5Gとは、企業や自治体が限られた範囲で利用するために構築する自営の5Gネットワークです。総務省より「ローカル5G導入に関するガイドライン」(※)が公表され、2019年から免許申請の受付が始まりました。現在、さまざまな場面でローカル5Gの導入検討が進められています。
※参考:総務省「ローカル5G導入に関するガイドライン」
ローカル5Gの特徴
以下でローカル5Gの特徴を4つ紹介します。
Wi-Fiより広範囲をカバー
Wi-Fiは、接続できる台数や範囲が限られているため、広い敷地内では設置方法に工夫が必要でした。一方ローカル5Gは、広範囲で使用できる上、複数台の機器を同時接続することも可能です。また、電波の到達範囲が広いため、屋外で利用することもできます。
通信トラブルの影響を受けにくい
ローカル5Gは、独立したネットワークであるため、移動体通信事業者が提供するネットワークの影響を受けません。災害や、大規模イベントで通信が混雑する、接続できないということがありません。
柔軟にエリア構築が可能
移動体通信事業者が提供するパブリック5Gは、現在段階的に整備が進んでいますが、まだ利用できるエリアは限られています。ローカル5Gは、移動体通信事業者のエリア整備に影響されず、ネットワークの整備が進んでいない郊外でも、独自に5Gネットワークを構築可能です。
セキュリティ強化
ローカル5Gは、外部のネットワークと切り離して、自社や工場内など特定の範囲のみで利用できるため、情報が外部に漏洩するリスクを抑えられます。また、SIM認証を利用することにより、Wi-Fiと比較して、なりすましや盗聴のリスクも軽減できます。
ローカル5Gとパブリック5Gの違い
ローカル5Gとパブリック5Gは、利用できる周波数、サービス提供者、利用できるエリア、利用者が異なります。
ローカル5Gは、基本的には企業が構築・運用を行いますが、企業の代わりに通信事業者やインテグレーターが免許を取得して構築・運用することも可能です。自社だけのプライベートな5Gネットワークであり、利用者は企業の社員などに限定され、申請した企業の建物や敷地など、特定の場所のみで利用できます。利用できる周波数は、ローカル5G用に割り当てられたSub6(4.6~4.9GHz帯)とミリ波(28.2~29.1GHz帯)のなかから使用する周波数を選択します。
それに対して、パブリック5Gは、移動体通信事業者が構築・運用を行います。サービス加入者が全国で利用可能であり、総務省が各MNOに割り当てた周波数を利用します。
日本では2019年に、3.7GHz帯(3.6~4.2GHz)、4.5GHz帯(4.4~4.9GHz)及び28GHz帯(27.0~29.5GHz)を5G用周波数として使用することが許可されました。これらの周波数は、移動体通信事業者大手3社と新規参入の楽天モバイルに割り当てられています。
また2020年には、政府によって電波施行規則等の一部が改正され、移動通信体事業者に割り当てられていた700MHz~3.7GHzが5Gに転用できるようになりました。
※参考:総務省「我が国の携帯電話用周波数の割当てについて」p11より
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ローカル5Gで使用可能な電波の周波数帯
ローカル5Gで使用可能な電波の周波数帯は、Sub6(4.7GHz帯)とミリ波(28GHz帯)の2つです。Sub6とミリ波の違いは、通信に使用される周波数帯です。
以下では、それぞれの周波数帯について解説します。
Sub6(4.7GHz帯)
4.7GHz帯は、Sub6(サブシックス)と呼ばれ、低い周波数帯を使ってエリアを比較的広く構築できる点が特徴です。Sub6は以下2つに分けられており、4.6~4.8GHzのみ、屋内かつ地域限定で利用可能とされています。
- 4.6~4.8GHz 屋内かつ地域限定で利用可能
- 4.8~4.9GHZ 屋内、屋外で利用可能
ミリ波(28GHz帯)
28GHz帯はミリ波と呼ばれ、大量の周波数幅を使って、より超高速・大容量通信ができることが特徴です。ミリ波は、厳密には30GHz~300GHzの周波数帯を指しますが、28GHz帯もミリ波帯に近接しているため、ローカル5Gで利用される28GHz帯についてはミリ波と呼ばれています。
ミリ波は以下2つに分けられており、28.45~29.1GHzのみ利用条件に制限があります。
- 28.2~28.45GHz 屋内、屋外で利用可能
- 28.45~29.1GHz 屋内で利用可能(固定衛星業務の地球局からの通信を容認するのであれば屋外で使えるという条件付き)
※参考:総務省「ローカル5G導入に関するガイドライン」
Sub6の特徴
Sub6は、現在4Gで利用されている周波数帯と近く、実装に技術的なハードルが低いといわれています。そのため、現在日本で普及している5GのほとんどがSub6です。
Sub6のメリット
- 電波到達範囲が広い
- 障害物の影響を受けにくい
- 屋内に電波が浸透しやすい
Sub6のデメリット
- ミリ波と比較して高速大容量通信が劣る
以下で、Sub6の特徴を解説します。
特徴1.電波到達範囲が広く、障害物の影響を受けにくい
Sub6は、電波の分類でマイクロ波に属します。ミリ波と比較して周波数が低いため、電波到達範囲が広く、障害物を回り込んで電波が届きやすいのが特徴です。また、雨の影響を受けにくく、広範囲のカバーが可能です。
特徴2.周波数の帯域幅が狭い
Sub6は、4G/LTEに使用されている周波数帯であるため、周波数の帯域を広く確保できません。そのため、大容量のデータをスムーズに送受信しにくく、同時接続可能台数はミリ波に比べると劣ります。
特徴3.技術的な問題をクリアしやすい
Sub6は、現在4Gで利用されている周波数帯と近いことから、技術的な問題をクリアしやすく、導入が比較的簡単です。すでに日本国内で普及している5G対応機器の多くが、Sub6を使用しています。現在、国内メーカーのAndroid端末の多くはSub6のみに対応しています。
※参考:総務省「周波数帯ごとの主な用途と電波の特徴」
ミリ波の特徴
ミリ波は、28GHz帯の周波数であり、超高速通信をはじめとした5Gのメリットを十分に引き出せる周波数帯です。
ミリ波のメリット
- 帯域幅を広く確保できるため、高速大容量通信が可能
ミリ波のデメリット
- 電波到達範囲が狭い
- 障害物の影響を受けやすい
- 屋外に電波が浸透しにくい
以下で、ミリ波の特徴を解説します。
特徴1.電波到達範囲が狭く、障害物の影響を受けやすい
一般的に周波数が高いほど直進性が強く、障害物に回り込む性質が弱くなります。(※)周波数の高いミリ波は、Sub6と比較して障害粒の影響を受けやすいです。また、大気中で減衰する特徴があり、雨や霧による影響を強く受けます。
ミリ波は電波到達範囲が狭いため、広範囲のカバーには向いていません。広範囲をカバーするには、多くの基地局やアンテナを建てる必要があり、コストが高くなるデメリットがあります。
特徴2.周波数帯域が広い
ミリ波は、広い帯域幅の確保が可能です。
帯域幅が広いほど、一度に送信できるデータ量が多くなります。さらに、送信できるデータ量が多いと、通信速度が早くなるため、ミリ波では大容量通信、高速通信が期待できます。
また、周波数帯域が広いことで、大容量のデータがやり取りするスペースを確保でき、データ処理の遅延も少ないため、多数同時接続が可能です。
特徴3.技術的なハードルが高い
ミリ波はSub6と比較して周波数帯域が広く、電波環境が良ければSub6よりも高速通信が可能です。しかし、電波の到達範囲が狭く、障害物の影響を受けやすいことから、実用までには技術的なハードルが高いといわれています。
※参考:総務省「電波対策について」p3より
ローカル5GにおけるTDD
無線通信は、基本的に送信と受信の双方向通信です。一般的には、基地局から端末への通信を下り通信、その逆を上り通信といいます。この2つの通信を同時に行うための技術には、周波数を分けて使うFDD(周波数分割複信)と、時間を分けて通信を行うTDD(時分割複信)があります。
4Gでは、上り通信と下り通信が別々の周波数を利用するFDDが使われています。FDDの場合、信号の通り道が明確に分かれているため、時間軸を気にせず通信が可能です。しかし、無線通信の利用が増えるにつれ、信号の通り道を確保することが難しくなるデメリットがあります。
一方で、5Gとローカル5GではTDDが使われています。TDDは、上り通信と下り通信が同じ周波数を利用します。双方向の通信を同じ道で行うため、通信の整理を行わないと信号同士が妨害しあって通信できません。そこでTDDの場合は、細かい時間割を決めて、上り通信と下り通信を行っています。
当初、全国の5Gとローカル5GはTDDの同期方式で運用されていましたが、ローカル5Gの周波数拡張が行われた2020年に、準同期方式が定義されました。
同期方式
TDDにおいて基地局と端末間の上り通信と下り通信のタイミングを一致させる方式を「同期」または「完全同期」といいます。同期のタイミングは、マイクロ秒レベルで厳密に定義されています。同期方式を利用する場合、ローカル5Gは、キャリア5Gとまったく同じ通信比率でしか使えません。
準同期方式
下り通信に使用している時間帯の一部を上り通信に割り当てることで、上り通信の割合を増やす方式が「準同期」です。
ローカル5Gは「端末側のカメラで撮影した画像をセンター側で確認」「多数のIoT端末からのデータをセンター側で集約」といった、上り通信が重要な場面での利用が期待されています。しかし、同期方式では上りの通信比率を大きく取れないため、高速通信といったローカル5Gのメリットを活かせないおそれがあります。準同期方式を採用することで、上り通信の速度が増すため、高速通信が可能となります。
※参考:総務省「ローカル5G導入に関するガイドライン」
※関連記事:伊藤忠テクノソリューションズ株式会社「第7回 「ローカル5G」今さら聞けない「準同期」」
ローカル5Gにおける周波数の共用条件
周波数を共用するローカル5Gは、他事業者との調整を行う必要があります。
具体的には以下のような条件があります。
- 非同期運用を行う場合は、原則として同期運用を行う無線局が、非同期運用を行う無線局よりも優先的に保護される
- 隣接周波数を利用する全国5G等と非同期の運用を行う場合は、準同期方式を使用する
- 準同期方式を利用する場合、ローカル5Gの免許申請を行う際、申請書類に準同期を利用することを明記する
- キャリア5G別のローカル5Gと基地局アンテナを同じ場所に設置する場合は、干渉調整を行う必要がある
- ローカル5Gは先行優位ではなく、後から隣接する事業者がローカル5Gを使う場合は、事業者間調整を行う必要がある
※参考:総務省「総務省におけるローカル5G等の推進施策」p15より
まとめ
本記事では、ローカル5Gで利用可能な周波数、周波数帯の特徴、周波数の共用条件について解説しました。2020年12月にローカル5Gで使える周波数幅が大幅に増加したことで、さまざまな分野でローカル5Gの実用に向けた研究開発が行われています。
現在利用が進んでいるのは、4Gの技術が転用でき、技術的な問題をクリアしやすいSub6の周波数帯です。Sub6には電波到達範囲が広く、障害物の影響を受けにくいメリットがある反面、周波数帯域が狭く、大容量通信や同時接続が難しいデメリットがあります。このデメリットを解消するのがミリ波であり、現在実用に向けた開発が進められています。
高速通信を実現するミリ波を利用したサービスが本格化すれば、さらにローカル5Gの利用拡大が加速するでしょう。
Local5Gを1BOXからはじめよう
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