ローカル5Gの機器構成とは?構成図で解説

2023.03.01

Cittecブログ編集部 Cittecブログ編集部

目次

ローカル5Gの機器構成には、SA方式とNSA方式がある

2020年に商用サービスを開始した5Gに対して、新たな市場を生み出す期待から普及が進んでいるのが、企業や自治体などがスポット的に5Gを利用できるローカル5Gです。現在、総務省が主体となり、5Gに関する技術基準策定の取り組みに加えて、ローカル5Gの導入に向けた関係規定の整備や開発実証事業が実施されています。
ローカル5Gは、用途に応じて必要な性能を柔軟に設定でき、通信障害や災害などの影響を受けにくい点が特徴です。ローカル5Gの実装方法には、SA方式とNSA方式があり、それぞれ機器構成が異なります。
本記事では、ローカル5Gの利用方式や、機器構成について解説します。

ローカル5Gの利用方式と構成

image1ローカル5Gの利用方式は、SA方式とNSA方式があります。以下では、各方式の特徴や構成について解説します。

SA方式

SA方式は、5Gネットワーク単独の構成です。ネットワークスライシングなどの5G特有の機能が使えるため、「超高速」「多数同時接続」「超低遅延・高信頼」という5Gのメリットを享受できます。
SA方式には以下の特徴があります。

  • 機器数が少なく、ネットワーク構成がシンプル
  • 電波は1種類
  • 対応する端末少ない
  • エリアカバーが狭い

SA方式は、必要な機器数が少なく、ネットワーク構成もシンプルです。電波も1種類のため、管理がしやすいとされています。また、5G設備だけで構築するため、NSA方式よりも導入コストが安い傾向があります。ただし現時点では、SA方式に対応する製品の種類が少ないため、製品の普及を待たなければなりません。

先行して導入が進んでいるNSA方式は、キャリアアグリゲーションの技術を使って高速通信が可能である一方、低遅延、多数端末接続の実現にはSA方式が不可欠です。ローカル5Gは当初、NSA方式での実証実験が多く行われていましたが、現在は5Gの特徴を活かすために、SA方式の導入を検討する企業が増えています。

特にSA方式の活用が期待されているのが製造業です。工場のデジタル化によって生産性や業務の効率化を図る技術として、SA方式によるローカル5Gの実証実験、導入検討が進められています。
現在、IoTソリューションを活用する工場が増えていますが、既存IoTを5Gネットワークに置き換えることで、従来の4Gベースでは実現が難しかった多数のデバイスの同時接続や、低遅延の通信が可能となります。

※参考:総務省「5Gの実現のために導入されている技術
※参考:総務省「5G・ローカル5Gの取り組み」p25より

NSA方式

NSA方式は、4Gと5Gネットワークを組み合わせた構成です。NSA構成では、既存の4Gネットワークに5G基地局をつなぐ形になります。
NSA方式では、4GのコアネットワークであるEPCを使って、ローカル5Gの周波数帯と従来の4G周波数を転用して5Gエリアを実現します。現状、さまざまなベンダーがNSA方式に対応する商品を販売しており、先行して導入が可能です。
NSA方式には、以下の特徴があります。

  • 機器数が多く、ネットワーク構成が複雑
  • 2種類の電波を管理しなければならない
  • 対応する端末が豊富にある
  • 広い範囲のエリアカバーが可能

ローカル5Gで利用できる周波数帯のミリ波とSub6のうち、Sub6はすでに4GやWi-Fiで利用されている周波数帯であるため既存の技術を流用しやすく、技術的なハードルが低いことが特徴です。
また、ミリ波帯だけではエリアカバーが難しい場合に4Gを併用することで、2.5GHz帯によるエリアカバーが可能です。

一方で、コアネットワークが5Gではないため、5Gの一部の機能しか使えない場合がある点には注意が必要です。
また、必要な機器の数が多くシステム構成が複雑である、2種類の電波を管理しなければならない、4Gと5G両方の設備が必要となるためSA方式と比べて導入コストが高い、などのデメリットも存在します。
導入初期の段階では、4Gのインフラ基盤をアンカーとして使用するNSA方式での運用が多数を占めていましたが、今後は5G単独で運用が可能なSA方式に移行していくとの見込みです。

※参考:総務省「製造現場におけるローカル5G等の導入ガイドライン」p33より

ローカル5Gの機器構成

ローカル5Gのネットワークは、以下3つの要素で構成されます。

  • コアネットワーク
  • 無線ネットワーク
  • ユーザー端末

image2それぞれの機器構成について解説します。

コアネットワーク

システム全体の司令塔として、インターネットなど他のネットワークと内部ネットワークの仲介や、ユーザー管理などを行います。汎用サーバーへのインストールや仮想化、クラウド利用などの形態があります。
SA構成の場合は5GC、NSA構成の場合はEPCが必要です。以下で、5GCとEPCについて詳しく説明します。

5GC(5Gコアネットワーク)

5GCは、SA構成のコアネットワークです。「高速大容量」「超低遅延」「多数同時接続」を実現します。

EPC(4Gコアネットワーク)

EPCは、NSA構成のコアネットワークです。「高速大容量」を実現しますが、「超低遅延」「多数同時接続」は完全にはサポートされていません。

無線ネットワーク

複数の無線基地局から構成されるネットワークをまとめて、無線ネットワークと呼びます。無線ネットワークは、無線でユーザー端末と通信します。
ローカル5Gの利用方式によって、構築に必要な機器が異なり、SA構成ではCU、DU、RU、NSA構成ではBBU、RRHが必要です。

SA構成の場合、無線ネットワークはCU、DU、RUの3つに分かれています。それぞれに機能を分担させることで、より柔軟にネットワークの構成が可能です。

無線ネットワークは、ローカル環境にハードウェアを置く必要があります。そのため、ローカル5Gの普及においては、無線ネットワークの低価格化が課題のひとつです。
ローカル5Gのサービスを提供する企業では、CU、DU、RUを一体化したタイプの基地局の開発も進んでいます。一体化することで、従来よりもハードウェアや工事費用の削減が可能となりました。無線ネットワークを構成する各機器について、詳しく説明します。

CU(データ処理部)

CUは、SA構成の場合に必要な構成機器です。複数のDUの制御を行います。

DU(無線信号処理部)

DUは、SA構成の場合に必要な構成機器です。広範囲をカバーする場合は、DUが複数台必要となります。信号の変調復調、欠損した信号の再送など無線信号処理を行います。専用の筐体を利用する場合もありますが、現在は仮想化や、汎用サーバーにインストールするタイプが主流です。

RU(無線装置)

RUは、SA構成の場合に必要な構成機器です。RUは、ユーザー端末との電波の送受信や、DUとの通信を行います。また、送受信されるデジタル信号の無線周波数変換や電力の増幅も行います。小規模なローカル5GネットワークにおいてはRU1台で構築可能ですが、広範囲のエリアをカバーしたい場合、RUは複数台必要です。

BBU(4G基地局・ベースバンド部)

BBUは、NSA構成の場合に必要な構成機器です。無線周波数以外のベースバンド信号を処理します。SA構成ではDU、CUにあたる部分です。

RRH(4G基地局・無線部)

RRHは、NSA構成の場合に必要な構成機器です。4Gの無線周波数を処理します。SA構成ではRUにあたる部分です。

ユーザー端末

ユーザー端末は、SIMを搭載した端末であり、UEとも呼ばれます。無線ネットワークと通信するスマートフォン、センサー、IoTデバイスなどを指します。NSA構成の場合は、4Gと5Gに対応したユーザー端末が必要です。

オンプレミス方式とクラウド方式の構成比較

ローカル5Gの構成は、コアネットワークの運用形態によって、オンプレミス方式とクラウド方式に分けられます。

image3以下では、それぞれの方式について特徴やメリット、デメリットを解説します。

オンプレミス方式

オンプレミス方式は、以下2つの方法があります。

  • すべてのローカル5G装置をユーザー拠点に設置する
  • ローカル5G機器をユーザー拠点に設置し、データ処理部、5GCコアをデータセンタなどに導入する

オンプレミス方式は、すべてのトラフィックがローカルで処理されます。そのため、高いセキュリティが求められる場合に最適です。ただし、初期導入時の費用が高額になるデメリットがあります。

クラウド方式

クラウド方式は、ローカル5G機器をユーザー拠点に設置し、データ処理部、5GCコアはクラウドに設置する方法です。クラウド方式はオンプレミスと比較して、初期費用を安く抑えられます。

どの機能をクラウドに置くかはベンダーによって異なりますが、制御プレーン機能と運用監視システムをクラウドに配置し、ユーザープレーン機能のみローカルに置くのが一般的です。その場合、実際のユーザーデータはローカルで処理されるため、最低限のセキュリティは担保できます。また、運用監視にクラウドサービスを利用することで、運用監視にかかる負担軽減にもつながります。実際に、近年ではローカル5Gの基地局設備はオンサイトで用意し、コアネットワーク部分の機能をすべてクラウドでまかなう形態が増えています。
さらに、企業で運用するサーバーもクラウド化が進んでおり、この流れに乗って、今後ローカル5Gのコアネットワークもクラウド化が進むでしょう。

※参考:総務省「製造現場におけるローカル5G等の導入ガイドライン」p38より

ローカル5Gとパブリック5Gとの違い

ローカル5Gとパブリック5Gは、どちらも「コアネットワーク」「無線アクセスネットワーク」「ユーザー端末」という3つの要素から構成されます。
両者の違いは、5Gを運営提供する主体が異なる点です。パブリック5Gの場合、「コアネットワーク」と「無線アクセスネットワーク」は、通信事業者がサービスインフラとして構築・運用します。一方、ローカル5Gの場合はユーザー組織が構築・運用できます。

以下では、ローカル5Gとパブリック5Gの特徴と違いについて解説します。

ローカル5G

ローカル5Gとは、企業や自治体が限られた範囲で利用するために構築する自営の5Gネットワークです。通信事業者のパブリック5Gが展開されていないエリアでも、独自に5Gの「超高速」「多数同時接続」「超低遅延・高信頼」という特長を最大限に活かした5Gネットワークを構築できます。

周波数は、ローカル5Gに割り当てられたSub6(4.6~4.9GHz帯)と、ミリ波(28.2~29.1GHz帯)を利用します。パブリック5Gと異なる周波数帯を利用するため、パブリック5Gの周波数帯で通信障害が発生した場合でもローカル5G内の通信は影響を受けません。

また、通信事業者が提供するパブリック5Gネットワークには不特定多数のユーザーが接続しますが、ローカル5Gでは許可された人のみがネットワークに接続します。そのため、不特定多数が接続することによる通信の混雑や通信速度の遅延、ネットワークに接続できないといった問題も避けられます。ローカル5Gには第三者からの接続がないため、機密情報の漏洩リスクを軽減できるメリットもあります。

パブリック5G

パブリック5Gは、一般的に5Gと呼ばれる「第5世代移動通信システム」のことです。パブリック5Gでは、コアネットワークと無線ネットワークを通信事業者がサービスインフラとして構築運用します。
2018年7月の情報通信審議会答申「第5世代移動通信システム(5G)の技術的条件」において、日本では3.7GHz帯(3.6~4.2GHz)、4.5GHz帯(4.4~4.9GHz)及び28GHz帯(27.0~29.5GHz)の周波数がパブリック5Gとして割り当てられ、技術的条件が策定されました。これらの周波数は、2020年3月から、ソフトバンク、NTTドコモ、KDDIなどの携帯電話事業者に割り当てられ、全国的に提供が開始されています。

パブリック5Gには、システム障害やユーザーが集中すると、通信トラブルが発生しやすいデメリットがあります。

※参考:総務省「5G用周波数の具体化と技術的条件の策定

プライベート5G

パブリック5Gとローカル5Gの中間に位置するものとして、近年提供され始めたのがプライベート5Gです。
プライベート5Gは、通信事業者の周波数を活用して個別に構築する5Gネットワークです。企業や自治体が限られた範囲で利用するために構築する点はローカル5Gと同様ですが、構築運用は通信事業者が行います。そのため、免許取得や保守運用の手間が省けるメリットがあります。
しかし、プライベート5Gは、パブリック5Gと同じ周波数帯を利用するため、パブリック5Gの周波数帯で通信障害が発生した場合に影響を受けてしまうおそれがあります。

まとめ

本記事では、ローカル5Gの利用方式や機器構成について解説しました。
ローカル5Gは、地域や産業の個別ニーズに応じて、企業や自治体が自らの建物内や敷地内でスポット的に構築できる5Gシステムです。さまざまな課題の解決や新たな価値の創造に向けて、多様な分野や利用環境で活用されることが期待されています。しかし、ローカル5Gには、コストが高い、運用が難しいなど課題も多くあります。
そこで注目されているのが、導入コストの安いSA方式によるローカル5Gネットワークの構築です。制度化初期は、4Gと5Gを組み合わせたNSA方式の実証実験が多く行われていましたが、今後は5Gの特徴を活かすSA方式での構築が主流になっていくでしょう。

また最近では、クラウドサービスと組み合わせたローカル5Gのサービスの提供も始まりました。5Gのコアネットワークをクラウド化することで、構築費用を抑えられるほか、運用監視の負担軽減にもつながります。今後は、無線ネットワーク内に設置する機器の一体化や、コアネットワークのクラウド化によるローカル5Gネットワーク構成の簡素化、低価格化が期待されています。

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