目次
前回のブログで、話を聞くといいことだらけ、でも本当に動くのか?スペックはよく見えるけど、実際に動かしてみたら問題点だらけなのではないか?
ということで、今回は実際に動かした結果についてご紹介します。
ASOCS検証環境の準備
まずは検証環境の準備です。
CTCはN Spaceというラボ環境を持っています。
ASOCSの検証環境もこの場所に準備することにしました。ただ、その時点では製品の性能がわからなかったこともあり、出来るだけ簡単に検証を済ませる為に無線局の免許は取得せず、シールドテント内に構築して準備を始めました。
余談ですが、ローカル5Gのシステムを動かすには時刻同期をとる必要があります。時刻同期をとるにはGNSS(GPS)アンテナが必要です。平和島の環境は自社ビルではないので、屋上にアンテナを取り付けて検証環境まで配線するハードルが非常に高く、何とか屋内でGPS衛星が見える場所を探してアンテナを設置しました。
他の用途に使用する目的で敷設したアンテナですが、ASOCS向けの時刻同期もこのアンテナを使用しています。
図1. N SpaceのGPSアンテナ
Local5Gを1BOXからはじめよう
1台のサーバと1台のスイッチを基礎としたソリューション
ASOCS(イスラエル)とのコミュニケーション
ASOCSはイスラエルの会社なので、エンジニアもイスラエルにいます。
コミュニケーションは試行錯誤したポイントの一つです。
時差はもちろん(イスラエルとの時差は夏時間で6時間)ですが、それ以外にも苦労したポイントを2つご紹介します。
ひとつは用語の違いです。
用語の違い?と言われるとピンと来ないかもしれませんが、例えば日本のエンジニアでは当たり前に使う「踏み台サーバ」という言葉があります。そのまま英訳すると「JUMP Server」とも呼びますが、一般的には英語だと「Bastion Server」と呼ぶそうです(同僚に聞いて初めて知りました)。しかし、ASOCSのエンジニアにはいずれも馴染みのない言葉で、最終的には彼らの用語に合わせることにしました。こういった違いが随所にあります。
もうひとつは、遠隔から操作をしてもらうにあたって、環境が見えない相手にラボ機器の状況を伝えること、これが最も苦労した点です。
ローカル5Gのシステムといっても様々な機器が存在します。ASOCSが担当するのはvRAN(vCU/vDU)とRUのみです。vRANをインストールするサーバ、サーバにインストールする仮想基盤、ネットワークスイッチ、5GC、RAN、時刻同期、無線、これらを前述の用語の違い等も踏まえて英語でやり取りします。円滑に進める為には、様々なジャンルの知識を結集させる必要がありました。
ここはCTCのワンチームが活きたポイントでもあります。全てのジャンルを一人でこなすことは出来ませんが、幸いにも各ジャンルに精通した人材が社内に居ました。状況に応じて必要なメンバーを招集し、参加してもらうことで、無事に一つのシステムを組み上げることが出来ました。
日本で売る為に必要なこと
ASOCS社にはこのタイミングで、日本でローカル5Gシステムを売る為に必要なお願いを2つしなければなりませんでした。
1つめは準同期への対応です。
※準同期についてはCTCのコラムに記載されていますので、こちらをご覧ください。
ASOCSのRANシステムは当初、準同期に対応していませんでした。日本でローカル5Gシステムとして使うには、必須ではないけれど確実に要望に上がる項目です。まずはこれに対応させる必要がありました。
準同期という定義は日本独自のものです。ソフトウェアに組み込んでほしいTDDパターンを英語にして説明しなくてはなりません。これは非常に苦労した点です。
図2. 英語での準同期説明資料
もう1点が日本の電波法対応です。
日本で無線機を販売するには無線機メーカーが工事設計認証を取得しなければなりません。さらにローカル5Gの場合は工事設計認証とは別に無線機で無線局免許申請が必要となります。免許申請の際は工事設計認証を取得しているから他の書類は不要、ということではなく、申請の際には改めて情報を提出する必要があります。
CTCのラボはシールドテントの中に構築しましたが、今後製品を販売する為にはこれらの情報を早めに取得する必要があります。その為、こちらも英語で説明しました。しかも、英訳する文章は電波法です。日本語でも難解な法律の表現を正しく英語に変換し、メーカーから出てきた内容が適合するか確認するという、地道な作業が続きました。
これらのコミュニケーションは非常に苦労しましたが、実際に意志が通じてからのASOCS社の対応は迅速でした。準同期(TDD1)は依頼してから3ヵ月で実装し、お客様にデモを見せられるレベルとなりました。一般的な無線ベンダーの開発スピードと比較するとかなり速い対応です。
設計に関しても打合せを何度も重ねて、結果としてはスタートから3か月ほどで、お客様に見せられる環境まで組み上げることが出来ました。
そして、完成!
様々な苦労を経て、完成したラボ環境がこちらです。
図3. ASOCSのRU
図4. ASOCSのサーバ
5Gとは思えないほど簡素なシステムです。
ITに関わっている人であればどこでも見るようなDell社のサーバ1筐体に、5Gで必要なソフトウェアが全て収容されています。
サーバ1台と、RU、そしてスイッチと時刻同期。
物理の機器はこれだけです。
物理的に機器の数は少ないですが、実際の中身の構成はこのようになっています。
今回はDruid社の5GCを使いました。
図5. ASOCSラボ構成
ASOCSは様々な構成を取ることが出来ますが、まずは1CU:1DUに対し、1~2台のRUを接続する構成で検証を行うことにしました。
いざ、測定!
環境が組みあがりましたので、いよいよ測定です。
テント内ですので出来ることは限られていますが、まずはRU 1台の場合のスループットを見てみましょう。
TDDパターン | Uplink | Downlink |
同期 | 80Mbps | 900Mbps |
準同期(TDD1) | 195Mbps | 550Mbps |
図6. RU 1台構成のスループット測定結果
続いて、本製品が搭載しているURLLC/ネットワークスライシング機能のご紹介です。
こちらは3GPP Release16の機能であり、まだ搭載している製品は基地局/端末共に多くありません。
今回の検証もRelease15対応端末を使用している為、劇的なレイテンシの改善には至っていませんが、正しく機能していることは確認できました。
ネットワーク スライス |
RTT結果 |
RTT結果 (最小) |
Uplink スループット |
Downlink |
eMBB | 19.9msec | 11.6msec | 80Mbps | 900Mbps |
URLLC | 15.2msec | 11.1msec | 6.7Mbps | 70Mbps |
図7. ネットワークスライシング検証結果
次に、当初の構成からRU 2台構成に変更して検証を行いました。
こちらは1つのCellに1台のRUを接続する構成で検証しました。ラボ環境で出せるトータルスループットが1Gbpsなので、これを2台で分け合う形です。
また、スループット測定はスライス設定をeMBBにして行いました。
TDDパターン | Uplink | Downlink | ||
端末1台目 | 端末2台目 | 端末1台目 | 端末2台目 | |
同期 | 65Mbps | 55Mbps | 480Mbps | 495Mbps |
準同期(TDD1) | 155Mbps | 145Mbps | 430Mbps | 395Mbps |
図7. RU 2台構成のスループット測定結果
測定条件 |
|
トータルスループットが1Gbps以上出せる環境であれば、数字は上昇します。 |
このように簡易な構成であってもスループットは他ベンダーと大きく遜色のないパフォーマンスが出ることが分かりました。保守性の課題もクリアでき、この製品ならお客様環境に導入してもお役に立てるのでは、と考えて取扱い開始に至りました。
またURLLC、ネットワークスライシングについても機能することがわかりました。端末がRelease16に対応していない為、数字としてはあまりインパクトがありませんが、今後Release16対応端末を使用して確認するのが楽しみです。
とはいえ、やはり大手ベンダーの製品と比べるとスループットは全く同じではありません。専用品は処理能力を最大限に活かす設計になっていますので、ここはASOCSでは適わない部分です。
CTCはマルチベンダーの会社です。多少高くなっても高性能、高機能の製品を使いたいというお客様にはASOCSは推奨しておりません。ある程度のパフォーマンスで効率的にローカル5Gを使いたい、というお客様であればASOCSは選択肢になると思います。
とはいえ、本当に検証結果をそのまま載せているの?と思われる方もいらっしゃると思います。CTCのラボ環境はお客様にもお見せすることが可能です。ご興味のある方は是非お問合せください。実際の機器と動作をお見せいたします。
次回は、ASOCS製品の今後の展望と、実際にご利用いただく際の価格体系についてご紹介いたします。
Local5Gを1BOXからはじめよう
1台のサーバと1台のスイッチを基礎としたソリューション