O-RANローカル5G商材「ASOCS」の新機能

2023.07.26

中島 暁子 中島 暁子

目次

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過去2回のブログで、O-RAN対応のローカル5G商材「ASOCS(CYRUS)」の特徴と、実際に検証した結果をご紹介しました。

今回はASOCSに搭載される新機能の位置検知ソリューション「ポジショニングサービスHermes」をご紹介いたします。

位置検知システムとは?

位置検知システムとは文字通り「どこに何があるかを検知する仕組み」です。

屋外ではGNSS(GPS、みちびきなど)の衛星を使った位置検知が一般的ですが、屋内で位置を検知する方法は様々な種類があります。

電波を使った屋内位置検知システムには、IMES、Wi-Fi、BLE Beacon(Bluetooth)、UWBなどがあります。それぞれ使われている電波の種類や、位置を推定する手法が異なる為、位置精度が異なります。電波を使っているのでピンポイントでの位置推定は難しく、精度が最も高いUWBで数10cm、それ以外の仕組みでは数m~数10mの誤差が出ます。

位置推定方法にも幾つかの方式があり、代表的なものとしてTDoA、RSSI測位、AoA、ToEなどがあります。またシステムによってはこれらの手法を複数種類組み合わせているケースもあります。これらの詳細についてはまた別の機会にご紹介いたします。

いずれのシステムもメリット、デメリットがあり、求められる精度、位置検知を行うエリアの広さ、アンテナ設置数や場所の制限、予算などを考慮し、最適なシステムを選択することが求められます。

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1台のサーバと1台のスイッチを基礎としたソリューション

ASOCSのポジショニングサービス「Hermes」

ここからはASOCSのポジショニングサービス「Hermes」についてご紹介いたします。
「Hermes」で使用する電波はもちろん5Gです。5Gにおけるポジショニング機能については3GPP Release17で定義されており、「Hermes」はこちらに準拠したサービスとなっています。

現在のバージョンではUL TDoAという手法が使われており、さらに位置予測のAIを組み合わせたアルゴリズムが使われています。

このAIアルゴリズムがポイントで、電波環境を学習し、干渉波に対処した調整を行います。学習をすればするほど精度が上がるので、今後も利用が増えるにしたがって精度は上がっていくことが期待できます。

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図1. Hermesの位置検知の仕組み

主な利用条件は以下の通りです。


条件1.   3台の無線機(RU)

Hermesを使う場合に必要となるRUは3台です。

位置検知においてはRU 3台で囲まれた中をエリアと定義する製品もありますが、HermesはUEが3台のRUからの電波を受け取れる場所であれば、特に囲まれた中である必要はありません。また、電波レベルはデータ通信を行う場合ほど高い必要はありません。

位置検知が可能なエリアはデータ通信で利用するエリアよりも広く取ることが可能です。

TDoAを使う場合は時刻同期をとる為に4台目のRUが必要となるケースもありますが、本ソリューションにはそういった制約はありません。
 
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図2. RU 3台の配置例

条件2.   5G UEの利用

5G通信なので、当然5G用のUEが必要です。ただしUEはポジショニング対応したRelease17である必要はなく、SA対応であればRelease15対応端末でも利用可能です(精度は落ちる可能性があります)。特殊なUEを用意する必要はありません。

条件3.   Hermesソフトウェアの利用

ASOCSから提供されるソフトウェアです。


条件は以上です。つまり、ローカル5Gを使う場所で追加機能としてポジショニングサービスを使うことが可能となります。

ある程度の誤差は許容されるとはいえ、やはり位置検知で最も重要なことは精度です。2023年時点でのHermesはPoCサービスという位置付けで、継続して開発を進めています。今後さらなる改善も期待されますが、現時点でのスペックは以下の通りです。

項目 説明
測量方法

TDoA(Time Difference of Arrival) 。
 ※時刻誤差より送受信機間の距離差を算出した三点測位
NLOS環境ではAIを使ってUEの位置を推定

誤差 およそ1-2m
耐移動性 5-8m/s(時速18km/h-27km/h)
情報外部連携 1. Hermes API提供 (GA版では、3GPP準拠により廃止可能性あり)
2. LMF提供 (現在開発中)
必要RU数 3台以上。3台のRUからの電波がSNR=8dB以上で受信できる環境を推奨(実際はもっと低くても検知可能)

図3. Hermesのスペック

 

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実際の性能は?

ここまで紹介すると、やはり実際にどれくらいのパフォーマンスなのか?が気になりますよね。

私達は2023年6月にイスラエルのASOCS社を訪問し、実際にHermesを利用したポジショニングサービスのデモを見てきました。

実は事前に口頭で説明を受け、デモの動画を見ていましたが、今ひとつこのサービスのメリットが見えていませんでした。現地で動作している環境を見てようやく理解できた、というのが正直な感想です。

そのようなソリューションを文章でどの程度お伝えできるか自信がないのですが、出来る限りわかりやすくお伝えできればと思います。

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図4. ASOCS Hermesデモ環境

実際にデモを見た環境は、このような屋内駐車場の一角でした。こちらにRUが3台設置されています。駐車場はご存知の方も多いかと思いますがコンクリートの柱や梁があちこちにあり、電波はこれらの材質では跳ね返ってしまう性質がある為、決して電波環境はよくありません。

UEは自走式ロボットに取り付けられています。これは低速で動くロボットなので、どれくらいの速度まで追従できるか、の限界は今回確認できませんでした。

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図5. ASOCS HermesデモRUとUE

では、実際のデモの様子を見てみましょう。

まずは設定画面です。現状はPoCソフトウェアなのでビジュアル的に作りこまれてはおらず、簡易的なツールです。こちらにマップを取り込み、RUの位置と端末の台数を入力します。

今回はデモなのでマップのキャリブレーションなど細かい設定は確認していませんが、基本的には設定項目はRUとUEの情報入力だけとのことでした。RUの位置を入力したらキャリブレーションが行われ、RUの電波状況から最適な位置情報を算出できる状態にアプリケーションが調整されます。

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図6. Hermes管理画面

この状態から、UEの位置検知を開始します。

まずはUEからRUが見通せる環境での検証です。この環境ではかなり精度が高く、ほぼリアルタイムにUEの位置が移動します。

更にコンクリートに囲まれて電波環境は悪いにも関わらず、位置情報もほとんどズレずに移動していきました。

続いて、柱に隠れてRUが見えない場所にUEが移動します。ここは見通しが悪いので、UEの位置精度が若干落ちます。

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図7. 見通し外でのUE移動

見通し外でも引き続き追従できました。この位置はRUが1台だけ見える位置ですが、こちらで誤差は数mでした。

通常、見通し外では端末を追従できなくなったり、誤差が大きくなったりすることがあり得ます。HermesはAIによる学習を繰り返すことで精度を上げています。この為、見通し外であっても想定より小さな誤差で端末の位置を追いかけることが出来ている、と教えていただきました。

全体的にはローカル5Gのネットワークと併せてポジショニングサービスを使えることは、かなり用途が拡がると感じました。

ポジショニングサービスの用途

ポジショニングサービスの概要をここまで見てきました。

残念ながら日本ではRU 3台を置ける広大なラボ環境を私達が持ち合わせていない為、実際の動作をお見せすることが出来ませんが、利用できそうなシーンがあれば是非一度ご相談いただければと思います。

本機能は前述の通りPoC用で、商用アプリケーションリリース時にはさらに精度を上げた形でのご提供を予定しております。とはいえ無線の三点測位である以上、センチメートル単位まで誤差を少なくすることは難しいです。

用途としては精密な位置精度が求められるケースではなく、比較的広いエリアで、ある程度の場所がわかればよいケースで活用できると考えられます。例えば以下のようなケースです。

  • 作業現場で人がどのあたりにいるかがわかる
  • 台車などの物がどこに置かれているかがわかる(置き去り防止)
  • 低速の自走ロボットの居場所がわかる

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気になるASOCSの価格体系は?

ここまで3回にわたり、ASOCSのローカル5Gソリューションをご紹介してきました。導入にあたり、価格面も気にされるかと思います。

ASOCSのソリューションはソフトウェアでの提供となり、サブスクリプションライセンスです。ライセンス価格は以下の要素で決まります。

  • RU台数
  • UE台数
  • RANで使用するトラフィック量

ライセンスの最低利用期間は1年間で、基本的には月額ライセンスです。利用期間についてはご要望に応じ調整できる場合がございますので、詳細をお客様とご相談の上で決定いたします。

最も小さなライセンスはPoC専用ライセンスで、RU 3台、UE 5台まで使用可能です。PoCライセンスでもRUが3台使えますので、接続だけ確認して終わり、ではなく、実利用に近い環境でPoCを実施することが可能です。そのうえで継続利用するかどうかを判断することが可能です。

RANソフトウェア以外にシステムを構成する機器として、RU、RANソフトウェアを搭載するサーバー、仮想化基盤、時刻同期システム、PTPスイッチなどが必要となりますが、これらも全てCTCから提供することが可能です。

またUE、SIMカード、実際に利用するアプリケーションについてもご提供可能ですので、ローカル5Gの利用に迷われている方は是非ご相談ください。利用方法から一緒に考えていければと思います。

 

本ブログがローカル5G及びASOCS社ソリューションを知る為の一助になりましたら幸いです。
文面ではお伝えできていない内容もございますので、ご興味を持たれましたらお気軽にご相談ください。

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中島 暁子 中島 暁子

2002年入社。衛星通信運用業務を経て、2008年より地域WiMAX、Wi-Fiなど無線関連のサービス企画、プリセールス、導入作業に携わる。 現在はCTCグループの5G/ローカル5GにおいてRAN領域全般を担当。