昨年、アメリカOpenAI社が開発した生成AI「ChatGPT」をめぐる話題が後を絶たないほど人気になっています。今回は中国における生成AIの動向を紹介します。
現在、中国における生成AIの利用は、主に以下の部分に現れています。
インターネット大手企業の開発者は、生成AIの動向に大きな関心を持っています。なぜならChatGPTが証明したように、生成AIへの取り組みは開発者の価値を示す絶好の機会となるからです。R&Dチームやビジネス部門内のアルゴリズムチームは、これまでやっていたことを一時中断し、生成AIの研究・開発に注力しています。
インターネット大手企業の生成AIに対する最大の期待は、コストを削減したり、旧来のビジネスを強化したりすることです。例えば、AIチャットボットを導入することで顧客サービスの効率化が進められています。また共有文書などは自動的にアップデートすることもできますので、人的リソースを大幅に減らすことが可能となりました。
中国の開発者の間では、生成AIの利用はまだ初期の段階にありますが、主に自然言語の処理や知識Q&Aアプリケーションで利用されています。
国家インターネット情報弁公室(SIIO)や工業情報化部(MIIT)など、生成AIの技術を研究・応用している政府機関もあります。
中国での生成AIの利用は、全体としてはまだ第一段階ですが、技術の継続的な発展と応用の深化により、今後の期待は高まっています。
現代社会ではソーシャルメディアは人々の生活の一部になっています。中でもチャットソフトは、コミュニケーションのための最も重要なツールの一つといえるでしょう。
そのため中国では独自の自然言語処理技術が発達し、高性能なAIチャットボットが利用されるようになりました。
AIチャットボットはユーザーのチャット履歴に対してディープラーニング(深層学習)を行います。ユーザーが表現したい意味や感情をよりよく理解することで、簡潔で正確な返信をすることができます。
ユーザーエクスペリエンスにも優れており、 シンプルなデザインと洗練されたインターフェースで、必要な機能に簡単にたどり着くことができます。
また個人情報の保護を重要視しており、関連する法律や規制を遵守するとともに、最新のセキュリティ技術でユーザーのプライバシーを確保します。
機能面に着目すると他のAIチャットボットにはない利点も多くみられます。 基本的なテキストチャット機能に加えて、音声、ビデオ、絵文字などの対話方法もサポートしています。
さらに、モーメントなどのソーシャル機能があり、ユーザーは自分の生活を記録して共有することが可能です。
中国のAIチャットボットは、WeChat、Weibo、TikTokなどのプラットフォームを通じて広く知られるようになりました。今後もますます拡大の一途をたどると思われます。
OpenAI社のChatGPTやMicrosoft Bing Chatは、いまのところ中国国内では利用することが出来ませんが、独自の生成AIが大手テック企業や大学研究機構の手によって開発されています。
現時点で、発表のあった主なサービスは、下表のとおりです。
会社名 |
サービス名 |
備考 |
百度 |
文心一言 |
ChatGPTに対抗するために開発されたもので、言語理解、言語生成、テキストから画像生成などのタスクを実行できる。 |
阿里 |
通義千問 |
ユーザのプロンプトに応えて記事や詩を生成することができる。また、アウトラインの作成、褒め言葉の検索、レシピの提供、様々なスタイルやトーンでの文章作成が可能。近い将来、この新たなAIモデルをアリババのさまざまなビジネスに統合し、ユーザー体験を向上させる予定 |
騰訊 |
混元助手(HunyuanAide) |
太極機械学習プラットフォームと連携し、AI画像生成および編集技術サービス「騰訊云AI絵画」を提供。入力した画像やテキストを結合し、入力内容に沿う高品質な画像コンテンツを高効率かつ柔軟に生成できる。 |
華為 |
盤古 |
産業用に完全特化したAIモデルで、自然言語、マルチモダリティ、コンピュータービジョン、予測、科学技術計算の基盤モデルを集約し、政務・金融・製造・鉱業などの業界向けに専用のAIモデルを提供している。 |
科大訊飛 |
星火 |
数学計算、テキスト生成、知識ベースの質問と回答が可能。今年10月までに中国語の理解でChatGPTを上回り、英語でも互角のレベルになると宣言。中国で最もChatGPTに近いと言われている。 |
商湯 |
日日新 |
SenseNovaは、画像生成から、自然言語生成、視覚感知の汎用サービス、そしてデータのラベリングサービスまでを含む、多様かつ柔軟なAPIとそのサービスを提供できる。 |
ここではある面白い事例を紹介して、今回の紹介を終わらせたいと思います。
ChatGPTの嵐で、今は何でもGPTの時代になっています。そこに香港の電動アシスト自転車メーカーURTOPIA社が、ChatGPTを搭載した最新の製品を発表しました。車体には音声対応のインターフェースとスピーカーが装備されているので、ChatGPTと会話しながらサイクリングを楽しむことができます。
走行しながら観光スポットなどについてChatGPTに質問することができ、数秒以内に具体的な回答を得ることができます。
また、Apple Watchとの連携することで、走行中の心拍数をモニタリングできます。リアルタイムで分析しアシスト強度の補正が行われるので、より効率的な長距離走行が可能です。
さらに内蔵されたChatGPTは、バイクのメンテナンス、栄養計画、走行ルート、怪我のリハビリに関するアドバイスも提供します。GPS、盗難防止ロックシステム、サイクリングセーフティなどのデバイスも内蔵しており、安全なサイクリングを保証します。
URTOPIA社の製品は欧米市場で販売されていますが、ChatGPT搭載の電動アシスト自転車は、中国・深センの会社(深圳哲輪科技有限公司、2021年創業)が開発元となっています。
同社はかねてよりAIに着目しており、すでに音声認識アシスタント機能を持つ製品もありました。しかし音声認識機能は、車線変更のような一部の主要なコマンドしか実行できず、人間とコンピュータのインタラクション体験は理想的なものではありませんでした。
そこで、同社はChatGPTを自社製品に統合することを決めました。ChatGPTを統合するというアイデアは非常に斬新でしたが、同時にいくつかの課題も残されています。
ChatGPTの学習データは2021年9月までであるため、交通状況や天気などリアルタイムの情報を尋ねることはできません。現状ではサイクリングに同行して個人的なツアーガイドの役割を果たすという用途に限定されます。
「人工知能搭載自転車」と表現するのは少し大げさに感じる人も多く、普通にスマホを使う方が便利なのでは?と主張する人もいるようです。
あなたはこの自転車をどう思いますか?