伊藤忠テクノソリューションズ(以下、CTC)未来技術研究所は、CTC グループの「未来の事業」を生み出し、「SI 事業の先にある新たな可能性の開拓」を推進している。本稿では、地方自治体への財源確保の一助となりえるNFT※1 やAR※2 を活用した取り組みについて述べる。
(株式会社ビジコミ発行 ビジネスコミュニケーション2023年10月号掲載記事を一部編集)
新事業創出・DX推進グループ
未来技術研究所
スマートタウンチーム
チーム長 三塚 明(写真左)
主任 国定 由恵
神谷 果歩(写真右)
4つの強みでふるさとを共創する「CLoV」
CTC 未来技術研究所は、デジタルテクノロジーを活用したサービスを創出することで、“住み続けたい・住み続けられるふるさとづくり”に貢献することをミッションとしている。
同研究所はこれまでも社会のあらゆる課題に対して、CTC 単独ではなく、パートナーと共創しつつ、共に新しい事業の種を見つけ、新しい価値を提案し多くの事業化を実現してきた。そして今日、重要な社会課題のひとつである地域創生にフォーカスしたふるさと共創イニシアティブ「CLoV(クローブ:CTC Local Vitalization)」を新たに立ち上げた。
CLoV は、テクノロジーを活用しながら、地域の「まち・ひと・しごと」の様々な課題に対してベストプラクティスを用意し、街づくりを推進する。
CTC はCLoV の推進にあたり、自社が有する4つの強みを発揮し、地域内を横断してイニシアティブをとり、自らが総合戦略家となってふるさと共創のプロジェクトを実行していくとしている(図1)。
図1 4つの強みでふるさと共創イニシアティブ「CLoV」を推進
「将来、CLoV が提供する各種サービスを『総合行動情報プラットフォーム』に集約し、外部のサービスとも連携しながら、自治体の施策立案に活かしていくことを目指しています」(三塚)。
以降、CLoV が提供するサービスの一部である「NFT 返礼品」と、「デジタル住民カード」(関連記事「ふるさと共創イニシアティブ「CLoV」②」を参照)の事例を紹介する。
文化財への寄付の返礼品にNFT を活用
日本の人口が年々減少するなか、多くの地方自治体にとって税収減は深刻な課題である。CTC は、そうした自治体に向けて、“NFT を寄付の返礼品として活用するサービス”を提案している。天然記念物や城などをデジタル化し、具体的なパーツに対し寄付を募るといった仕組みだ(図2)。
この仕組みにより、寄付者は疑似的ではあるが、文化財の一部(または全部)を所有することになる。城の瓦 1 枚、シャチホコ 1 体といった具合にパーツによって寄付額が変動するのもわかりやすい。斬新で興味を惹くアイデアだ。
現地を訪れて自分の所有する実物を見たいという寄付者が増加すれば、間接的に地方自治体の収入にもつながる。「ブロックチェーンの技術で、地方自治体の文化財に資産価値を持たせるというこのアイデアは、自然災害に遭った建築物を早期に修復したいにもかかわらず資金がない、といった場合にも有用だと考えています」(国定)。
未だ現在、実現には至っていないものの、既に複数の地方自治体から関心の声が寄せられている。
図2 NFT を返礼品とした寄付を実現するサービス(案)
ふるさと納税の返礼品にご当地キャラクターのNFT データを配信
ふるさと納税は財源確保の有効な手段の一つではあるものの、人気の返礼品は農産品や食品に集中し、そうした特産品を持たない地方自治体にとっては税収(寄付金)に結びつかない。
こうした課題に対する施策の一つとして、CTC は、埼玉県戸田市と共に、ふるさと納税の返礼品としてご当地キャラクターのNFT を配信する仕組みを構築した。
「できるだけコストをかけずに財源を得たいというご要望を受け、既に存在するご当地キャラクター『とだみちゃん』の3D モデルを作成し、NFT 化し、ふるさと納税の返礼品として数量限定で提供するという提案をしました」(神谷)。
この施策には、CTC が独自開発したAR アプリ「CLoVAR(クローバー)」の技術が活かされ、データ作成からNFT 化、配信までをCTC が担っている。
NFT を得たふるさと納税者は、スマートフォンやタブレットを用いて、場所や時期に応じて出現する“限定とだみちゃん”と一緒の写真撮影を楽しむことができる(図3)。ふるさと納税をしていなくても、利用できるバージョンもあるので、興味を持たれた読者は右下QR コードからアクセスしCLoVAR を体験してほしい。
図3 CLoVAR の使い方(戸田市× CTC 実証実験資料より)
CTC は、福岡県直方市、秋田県由利本荘市とも同様の取り組みを行っており、両自治体からも好評の声を得ている。
今後の展開
CTC は今後、アプリ上で地域限定の情報等の発信を行い、サービスの充実を図る予定だ。そして前述のとおり、サービスを「総合行動情報プラットフォーム」に集約し、外部のサービスとも連携しながら、行動情報などを分析し施策立案に活かしていく。
※1:NFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン) ブロックチェーン技術を活用することにより、コピーが容易なデジタルデータに対し唯一無二な資産的価値を付与したデジタルデータ
※2:AR(Augmented Reality:拡張現実)