QuesTek|計算材料設計とモデリングサービスにより、「経験的発見」から「科学的設計」に

2024.10.08

Cittecブログ編集部 Cittecブログ編集部

伊藤忠テクノソリューションズ株式会社(以下、CTC)は、米QuesTek International LLC(以下、QuesTek)との共同出資による合弁会社QuesTek JAPAN 株式会社(以下、QuesTek JAPAN)を通じ、日本国内企業に向けて材料設計支援を提供している。本稿では、同社の「Materials by Design®」と「ICMD®」等について紹介する。
(株式会社ビジコミ発行 ビジネスコミュニケーション2024年10月号掲載記事を一部編集)

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QuesTek JAPAN 株式会社
(左)代表取締役 澤田 繁樹
(右)山﨑 敏広

「Materials by Design®」による新材料の設計/ 開発

ICME(Integrated Computational Materials Engineering)とは、コンピューターテクノロジーを活用してマルチスケールで統合的なシミュレーションを材料開発に活かすコンセプトを指す。QuesTek は、このICME 技術の先駆者である米マサチューセッツ工科大学のProf. Greg Olson によって設立された。材料の設計/ 開発分野におけるリーディングカンパニーである同社は、ICME 技術と独自の材料特性データベース、モデル、特性評価ツールなどを組み合わせて材料を設計する手法「Materials by Design®」を用いて耐久性の高い鉄鋼や、新しい合金を開発している。

新製品開発において、既存材料が足かせとなり、目指す性能や機能を実現できないケースが少なくない。しかしながら、Materials by Design®を活用することで短期間のうちに高品質な新材料を創造し、新製品開発を加速化できる。

QuesTek では、自社で新しい材料の開発も行っている。その一例が、航空宇宙、自動車やエネルギー産業向けの鉄鋼材料、“Ferrium 鋼シリーズ”だ。開発はICMEの方法で行われ、最適な設計を効率的に実現する。例えばFerrium® M54 ®は、超高強度と耐応力腐食割れ性という特長を持ち、米海軍航空機の着艦フックに使用されている(図1)。これにより、製品の寿命は既存材料の2 倍以上となり、コスト削減は300 万ドルに相当、機械加工プロセスは20%短縮された。その他、米国空軍機の着陸装置、ロケットの重要部品、次世代ヘリコプター向けトランスミッションへの実績があり、いずれも性能・開発期間・コストに加えエネルギー問題、サステナブルといった社会課題解決の側面からも高い評価を得ている。

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図1 米海軍航空機の着艦フック

科学的設計に基づくICME のアプローチ

合金の材料設計/ 開発においては通例として「調査」⇒「材料設計」⇒「試作と特性評価」⇒「最適化と実用化」といったプロセスを辿る。従来型のこの手法は、研究者の経験や勘といった暗黙知に従い、試行錯誤を繰り返しながら開発を進めるため、検討や評価に多くの時間とコストを要す。

これに対し、ICME は上流からシステマチックに設計・計算化学を活用し効率的に開発を行う(図2)。最初に、プロセス- 材料組織- 材料特性- 要求性能の各要素の関連性を正確にモデリングし、物理モデルやデータベースに基づき、特性予測やプロセス改善などの材料設計を試作から製品化に至るまでのスケールで行う。

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図2 ICME による材料設計手法

SaaS 型プラットフォーム「ICMD®」

2023 年7 月、QuesTek は、SpaceX社やマサチューセッツ工科大学などの初期評価ユーザーによる広範なテストを経てクラウド型材料開発プラットフォームICMDRの提供を開始した(図3)。ICMDRは独自の材料モデル、プロセス最適化や特性評価ツールをSaaS としてパッケージ化し、材料の構造、強度、耐久性などに材料の配合が与える影響についてシミュレーションすることができる。最小限のデータでも要求性能を満たす材料開発や分析が可能で、新材料の設計の幅を広げられ、材料候補の選定にかかる期間の大幅な短縮を実現する。

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図3 クラウド型材料開発プラットフォーム 「ICMD®」

またICMDRは、単純なソフトウェアとは異なり、プラットフォーム内でさまざまなユーザーがプロジェクトを組成し、連携しながら活用できる点に特長がある。1977 年QuesTek 創立以来蓄積されてきた膨大なモデルやデータベースや最適化ツールキットを使用できるという点も特筆すべき魅力だ。

材料設計支援サービスと今後の展開

CTC は最先端の材料設計を広く支援するため、さまざまなサービスをラインナップしている。例えば、「材料設計コンサルティング」では、お客様の材料に対する課題解決に向けて新規材料開発や性能改善、プロセス改善の支援に加え、コンセプトからスケールアップ、量産化までを一貫してサポートする。また、「材料ライセンシング」では前述のQuesTek が開発した鋼材Ferrium®シリーズを代表とする高性能合金のライセンス提供及び鉄/ アルミ合金/チタン合金/ ニッケル合金などの特許利用について支援する。さらにAMS 規格(航空宇宙用材料規格)に代表される航空宇宙機器分野で適用される材料規格への登録・認証に関する取得サポートを行う。

これまで日本国内企業の新材料開発においては、熱力学計算ソフトウェアやマルチフェーズフィールド合金組織予測ソフト等を使って部分的なシミュレーションがなされていたものの、材料特性や要求性能まで統合的に且つ効率よく予測することはなかった。なぜなら、そもそもそ
うしたサービスの提供が国内に存在しなかったからだ。それだけにQuesTek JAPAN に寄せられる期待は大きい。CTC はこうした期待に応えるべく、QuesTek 社と連携してお新材料の開発を通したコスト削減や社会課題の解決に貢献していく。

 

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