5G において、「RedCap」という言葉が注目されている。IoT を5G で利用することを主な目的とした新しい規格で、日本では総務省が2024 年中に技術的条件の取りまとめを目指して実利用に向けた検討を進めている。ここでは、RedCap規格の概要と、ローカル5G における活用について考察する。
(株式会社ビジコミ発行 ビジネスコミュニケーション2024年10月号掲載記事を一部編集)
RedCap(Reduced Capability)は3GPP Release17 で標準化された5G ベースのIoT 向け通信規格である。5G の超高速(eMBB)、超低遅延(URLLC)といった特長を持たない代わりに、無線帯域を1 台のUE(端末)で占有せず、より多くネットワークに接続することを目的とする。また機能面だけでなく、チップセットの高温化が回避されることによるUE の小型化や消費電力の削減、UE 価格の低廉化に繋がることが期待されている。
日本では総務省が2024 年中に5G、ローカル5G それぞれにおけるRedCap 利用の法制度化に向けた技術的条件の取りまとめを完了すべく、検討を進めている。それによると、ローカル5G においてRedCapの帯域幅は10MHz または20MHzで定義される可能性が高い。帯域幅20MHz の場合、理論上のスループットはDownlink 70~80Mbps、Uplink 20~30Mbps 程度である。
なお、RedCap の技術的な特徴として、FDD(周波数分割複信)において半二重通信が可能な点が挙げられるが、ローカル5G はもともとTDD(時分割複信)を使う定義となっているため、この特性に関しては本項では言及しない。
ローカル5G に関連する部分のみの抜粋ではあるが、既存の5G とRedCap の無線仕様の比較を図1 に示す。
5G NR | RedCap | |
キャリア設定周波数間隔 | Sub6 : 100KHz, 15KHz mmWAVE: 60KHz |
Sub6 : 100KHz, 10KHz, 15KHz mmWAVE: 60KHz |
最大周波数帯域幅 | Sub6 : 100MHz mmWAVE: 400MHz |
Sub6 : 100MHz (1ユーザに対しての最大帯域幅は20MHz) mmWAVE: 100MHz |
変調方式(基地局) | QPSK, 16QAM, 64QAM, 256QAM | QPSK, 16QAM, 64QAM ※256QAMはオプション |
空中線電力 | Sub6 : 23dBmまたは29dBm mmWAVE: 35dBm | Sub6 :23dBmのみ mmWAVE: 35dBm |
MIMO | 最大8、受信アンテナ2端子以上 | 最大2、受信アンテナ端子1端子以上 (8MIMOはオプション) |
CA | 対応 | 非対応 |
既存のセンサーネットワークに特化した主な規格にLPWA、Wi-Fi HaLow がある。LPWA には複数の周波数帯が存在するが、Wi-Fi HaLow も含め、主にセンサーネットワークで活用されているのは免許や登録などの手続きが不要な920MHz 帯である。
しかし、これらのセンサーネットワークは極少量(数KB)のデータを長距離通信させるのに適した規格であり、数百メートルから1 キロメートル程度のエリアでの利用には適さない。また、920MHz 帯はアンライセンスバンドであるため、電波妨害など外部要因を排除しきれず、安定した通信を維持しづらいというデメリットもある。
一方で5G RedCap は前述の通り高速通信を必要としないアプリケーションを5G ネットワークに接続するための規格であり、既存の5Gネットワークと同じくライセンスバンドである。安定したデータ伝送が必要なケースや、数十Mbps の比較的大きなデバイス通信が必要な場合は強みを活かすことが出来る。特にローカル5G において従来の規格では通信帯域がほぼ100MHz に固定であったため、アプリケーションが使う実際の通信に関わらず大きな帯域を使用することが課題となっていたが、RedCap 対応UE を利用することによりこの課題は軽減される。既存のネットワークにおいて、カメラは5G 対応だがセンサーネットワークはWi-Fi のままであったり、データ取得のみアナログ回線を使用したりといった環境も多いと思われるが、これらの機器も全て5G に集約されることが期待できる。ローカル5G におけるRedCap のイメージを図2 に示す。
ローカル5G の最大の活用フィールドである製造業や倉庫などでの利活用を考えると、RedCap の法制度化によりローカル5G の利用促進が期待されるが、一方でローカル5G向けのRedCap 法制度化には懸念点もある。
ローカル5G 向けのSub6 帯域は4.6-4.9GHz の300MHz であるが、このうち4.6-4.8GHz は屋内専用、一部地域で利用不可など制約が大きい。そのため一部の海外製品は4.6-4.8GHz で工事設計認証を取得しておらず、商用免許申請でこの周波数帯が使用できない。また、4.8-4.9GHz は設定できる周波数が細かく指定されており、帯域幅100MHzの中で自由に周波数を設定することはできない。ローカル5G の用途を考えると、RedCap 向け通信(帯域幅20MHz)と通常の高速5G通信(帯域幅100MHz)を混在させたいというニーズも多いと考えられるが、どのように共存させる手法を取るのかは気になるところだ。
また、基地局側もRedCap 対応が必要である。低コスト化されたエントリーモデルでは周波数や帯域幅が1 種類に固定されており、RedCap 向けの設定に変更できない可能性がある。またIoT では映像伝送や移動体通信に比べて基地局に接続するUE の台数が大幅に増加する。RedCap 合わせた対応や、ある程度の台数のUE 接続を模擬した接続検証など、基地局メーカーとの調整も必要となる。
ローカル5G におけるRedCap 利用には課題があるが、ローカル5Gの実利用を検討している製造業などではIoT への期待は大きい。RedCap 規格が利活用されるためには、早期の法制度化だけでなく、基地局及びUEの規格への柔軟な対応、相互接続に向けた両者の連携が不可欠である。また、1 企業が多くのUE を使うと想定されるため、価格の低廉化も欠かせない要素である。
基地局メーカー、UE メーカー、そして総務省による法制度化の正確な理解。我々システムインテグレータはそれぞれに対して必要な情報共有や技術支援を行い、確実なシステムをお客様に提供したい。