目次
はじめに
5Gの急速な普及に伴い、通信技術の中で不可欠な役割を果たすHandoverに変更が生じました。
LTE(4G)から5Gへの移行に伴い、O-RAN仕様を採用したRAN(Radio Access Network)が増加し、通信中に端末が別の基地局に移る際のHandover手順や動作が追加されました。
しかし、実際の動作においては、5GCやgNBの装置が変わりつつも、手順や動作に大きな変更はなく、従来の手法を踏襲しています。この記事では、新たな5G時代の通信環境におけるHandoverについて、変更点を含めた解説を交えてご紹介していきます。
実際のHandover検証を行う際は、通信が正常に続いているかどうかを確認することが非常に重要です。
通信が途切れないからといって、Handover(通信を別の基地局に移すこと)が成功したと結論づけることはできません。通信を途切れずに維持するためには、Handoverについて正しく理解する必要があります。
各機器間でやりとりされるメッセージや、メッセージに含まれる識別子など、Handoverの種類や動作、変更点について把握しておくことが必要です。
このブログでは、具体的な変更点を含むHandoverの種類や動作に関する解説を交えて、自己学習の一環として5G通信におけるHandoverの重要性とその仕組みを探っていきます。
Handoverとは?
Handoverは、スマートフォンやタブレットのデータ通信を途切れずに、通信基地局間を移動する重要なプロセスです。通信基地局はRU、DU、CUの3つのパーツから構成されています。
Handoverには、3GPP(通信技術の国際的な規格を決める団体)で標準化された方法と、O-RAN(無線アクセスネットワークのオープンな仕様を提供する組織)で追加された方法の2つがあります。両者は同じアイデアを共有していますが、具体的な手順や条件が異なります。
3GPPで標準化されたHandoverでは、LTE(4G)と同様の考え方が適用されます。
具体的には、基地局間で通信経路が確立されていない場合に発生するN2 Handoverや、基地局間の通信経路が確立されているXn Handoverなどがあります。
※異なる周波数間などに関する詳細はここでは扱っていません。
一方、O-RANの構造では、従来のeNB(基地局)とは異なり、gNB(新しい基地局)はCU、DU、RUの3つの部分から成り立っています。このため、いくつかの新しいHandoverの方法が追加されました。通信の基地局の構造がLTEとは異なることため、これらの技術の理解が必要です。
Handoverの種類
3GPPで標準化されているHandoverの種類
TS 23502に記載されているHandover(4.9.1)からの抜粋です。
基本的には大きく2種類あります。
- Xn Handover (Xn based inter NG-RAN handover)
- N2 Handover (Inter NG-RAN node N2 based handover)
O-RANで追加されているHandoverの種類
O-RANではgNBの構成上以下の2種類あります。
- Intra-gNB DU Handover(同一DU内でRUを切り替え)
- Inter-gNB DU Handover(同一CU内でDUを切り替え)
3GPPで標準化されているHandover
Xn Handover (Xn based inter NG-RAN handover)
3GPPで標準化されているHandoverのXn based inter NG-RAN handoverは、AMFが変更されず、SMFが既存のUPFを維持する場合に、ソースgNBからターゲットgNBにUEをHandoverするために使用されます。
つまり、gNBの変更がある一方で、データ通信を行っている5GC(実際のデータ通信を担当するUPF)に変更がないケースです。この仕組みにより、通信の安定性やサービスの継続性を確保しつつ、 gNB間のHandoverを行います。
発生条件と動作イメージ
CUとCUの間にXnインターフェース(青線)がある場合に、端末(UE)がCell 1からCell 2に移動した際に発生します。
※Xnインターフェースの実装はベンダーによって異なります。
確認ポイント
端末(UE)がCell 1からCell 2に移動した際に、CUが変更になるためPCIやCell IDの変更が通知されます。
具体的には発生するシーケンスとやり取りを行っているメッセージを確認します。
Procedureの確認
Xn based inter NG-RAN handover ではUE、Source gNB、Target gNB、5GCの間でメッセージの送受信が行われます。以下は簡易的な物ですが、メッセージの送受信が正しくされているか、通信が中断されないか、想定外のメッセージの送受信がされていないこと、手順に基づいて、UE、Source gNB、Target gNB、5GCが期待通りのメッセージを交換していることを確認します。
メッセージの確認
Xn based inter NG-RAN handover ではUE、Source gNB、Target gNB、5GCの間でメッセージの確認を行います。
以下は簡易的な確認ポイントです。
プロトコル | メッセージ名 | 確認ポイント |
RRC | MeasurementReport | • UEからSource gNBにMeasurement Reportが発生していること。 • Measurement Reportには、Source gNBの電界強度とTarget gNBの電界強度が含まれていることを確認。 |
RRCReconfiguration | • Source gNBからUEにRRCReconfigurationが送信されていることを確認。 • Source gNBの通信基地局ID(physCellId)が設定されていることを確認。 • Target gNBの通信基地局ID(physCellId)が設定されていることを確認。 |
|
RRCReconfigurationComplete | • UEからTarget gNBにRRCReconfigurationCompleteが送信(応答)されていることを確認。 | |
XnAP | HandoverRequest | • Source gNBからTarget gNBにHandoverRequestが送信されていることを確認。 • HandoverRequestには、Target Cell、PDU Session情報、RRCメッセージが含まれていることを確認。 |
HandoverRequestAck | •Target gNBからSource gNBにHandoverRequestAckが送信されていることを確認。 •HandoverRequestAckには、PDU Session情報、RRCメッセージが含まれていることを確認。 |
|
SN StatusTransfer | • Source gNBからTarget gNBにSN StatusTransferが送信されていることを確認。 | |
UEContextRelease | • Target gNBからSource gNBにUEContextReleaseが送信されていることを確認。 | |
NGAP | PathSwitchRequest | • Target gNBから5GCにPathSwitchRequestが送信されていることを確認。 •PathSwitchRequestには、RAN-NGAP-ID、Handover先のTarget gNB情報が含まれていることを確認。 |
PathSwitchRequestAck | • 5GCからTarget gNBにPathSwitchRequestAckが送信されていることを確認。 • PathSwitchRequestAckのRAN-NGAP-IDがPathSwitchRequestと同様であることを確認。 • UEの情報とPDU Session情報が含まれていることを確認。 |
N2 Handover (Inter NG-RAN node N2 based handover)
3GPPで標準化されているHandoverのInter NG-RAN node N2 based handoverは、ソースNG-RANとターゲットNG-RANでXnインターフェイスがない場合に発生します。
XnベースのHandoverが失敗した後にトリガーされる可能性や、新しい無線条件や負荷分散ターゲットNG-RANからのエラー表示(つまり、IPがない場合)によってもトリガーされる可能性があります。
つまり、gNBの変更はあるが、Xnインターフェイスが無いため、5GCを経由してHandoverを実施する手順です。
発生条件と動作イメージ
CUとCUの間にXnインターフェース(青線)が無い場合、端末(UE)がCell 1からCell 2に移動した際に発生します。
確認ポイント
端末(UE)がCell 1からCell 2に移動した際に、CUが変更になるため、PCIやCell IDの変更が通知されます。
具体的には発生するシーケンスとやり取りを行っているメッセージを確認します。
Procedureの確認
Xn based inter NG-RAN handover ではUE、Source gNB、Target gNB、5GCの間でメッセージの送受信が行われます。以下は簡易的な物ですが、メッセージの送受信が正しくされているか、通信が中断されないか、想定外のメッセージの送受信がされていないこと、手順に基づいて、UE、Source gNB、Target gNB、5GCが期待通りのメッセージを交換していることを確認します。
メッセージの確認
Inter NG-RAN node N2 based handoverではUE、Source gNB、Target gNB、5GCの間でメッセージの確認を行います。
以下は簡易的な確認ポイントです。
プロトコル | メッセージ名 | 確認ポイント |
RRC | MeasurementReport | • UEからSource gNBにMeasurement Reportが発生していること。 • Measurement Reportには、Source gNBの電界強度とTarget gNBの電界強度が含まれていることを確認。 |
RRCReconfiguration | • Source gNBからUEにRRCReconfigurationが送信されていることを確認。 • Source gNBの通信基地局ID(physCellId)が設定されていることを確認。 • Target gNBの通信基地局ID(physCellId)が設定されていることを確認。 |
|
RRCReconfigurationComplete | • UEからTarget gNBにRRCReconfigurationCompleteが送信(応答)されていることを確認。 | |
NGAP | HandoverRequired | • Source gNBから5GCにHandoverRequiredが送信されていることを確認。 • HandoverRequiredには、RAN-NGAP-ID、AMF-NGAP-ID、Handover先のTarget gNBが含まれていることを確認。 |
HandoverRequest | • 5GCからTarget gNBにHandoverRequestが送信されていることを確認。 • HandoverRequestのAMF-NGAP-IDがHandoverRequiredと同様であることを確認。 |
|
HandoverRequestAck | • Target gNBから5GCにHandoverRequestAckが送信されていることを確認。 • HandoverRequestAckのAMF-NGAP-IDがHandoverRequiredと同様であることを確認。 • RAN-NGAP-IDが採番されていることを確認。 |
|
Handovercommand | • 5GCからSource gNBにHandoverCommandが送信されていることを確認。 • HandoverCommandのRAN-NGAP-ID、AMF-NGAP-IDがHandoverRequiredと同様であることを確認。 |
|
UplinkRANStatusTransfer | • Source gNBから5GCにUplinkRANStatusTransferが送信されていることを確認。 • UplinkRANStatusTransferのRAN-NGAP-ID、AMF-NGAP-IDがHandoverRequiredと同様であることを確認。 |
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DownlinkRANStatusTransfer | • 5GCからTarget gNBにDownlinkRANStatusTransferが送信されていることを確認。 • DownlinkRANStatusTransferのRAN-NGAP-ID、AMF-NGAP-IDがHandoverRequestAckと同様であることを確認。 |
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HandoverNotify | • Target gNBから5GCにHandoverNotifyが送信されていることを確認。 • DownlinkRANStatusTransferのRAN-NGAP-ID、AMF-NGAP-IDがHandoverNotifyと同様であることを確認。 |
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UEContextReleaseCommand | • 5GCからSource gNBにUEContextReleaseCommandが送信されていることを確認。 • UEContextReleaseCommandのRAN-NGAP-ID、AMF-NGAP-IDがHandoverRequiredと同様であることを確認。 |
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UEContextReleaseComplete | • Source gNBから5GCにUEContextReleaseCompleteが送信されていることを確認。 • UEContextReleaseCompleteのRAN-NGAP-ID、AMF-NGAP-IDがHandoverRequiredと同様であることを確認。 |
O-RANで追加されているHandover
Intra-gNB DU Handover(同一DU内でRUを切り替え)
RANで追加されたHandoverのIntra-gNB DU Handoverは、NG-RANでRUのみ切り替えた場合に発生します。
つまり、gNB(CU/DU)の変更も無く、RUのみのHandoverを実施する手順です。
Handoverと呼んでいない場合もあります。
発生条件と動作イメージ
同一DU内のRUが切り替わります。Cell 2からCell 3に移動した際に発生します。
確認ポイント
端末(UE)がCell 2からCell 3に移動した際に、RUが変更になるためServCellIndex、PCIの変更が通知されます。
具体的には発生するシーケンスとやり取りを行っているメッセージを確認します。
Procedureの確認
Intra-gNB DU HandoverではUE、gNB(DU、CU)の間でメッセージの送受信が行われます。
以下は簡易的な物ですが、メッセージの送受信が正しくされているか、通信が中断されないか、想定外のメッセージの送受信がされていないことを確認します。
※CU、DU間は同一装置に実装されていることが多く確認観点から割愛しております。
メッセージの確認
Intra-gNB DU HandoverではUE、DU、CUの間でメッセージの確認を行います。
以下は簡易的な確認ポイントです。
※CU、DU間は同一装置に実装されていることが多く確認観点から割愛しております。
プロトコル | メッセージ名 | 確認ポイント |
RRC | MeasurementReport | • UEからSource gNBにMeasurement Reportが発生していること。 • Measurement Reportには、Source gNBの電界強度とTarget gNBの電界強度が含まれていることを確認。 |
RRCReconfiguration | • Source gNBからUEにRRCReconfigurationが送信されていることを確認。 • Source gNBの通信基地局ID(physCellId)が設定されていることを確認。 • Target gNBの通信基地局ID(physCellId)が設定されていることを確認。 |
|
RRCReconfigurationComplete | • UEからTarget gNBにRRCReconfigurationCompleteが送信(応答)されていることを確認。 |
※弊社環境での結果になりますが、上記の構成で2つのRUが同一のPCIの場合、RRCのメッセージであるMeasurementReportやRRCReconfigurationが発生しません。そのため、同一DU内で同じPCIのRUを切り替えた場合、L3のメッセージ(RRC)ではなく、L2のメッセージ(MAC)で確認できるRNTIなどの情報が必要となる可能性があります。
Inter-gNB DU Handover(同一CU内でDUを切り替え)
NG-RANで同一CU配下のDUが切り替わる場合に発生します。
つまり、gNBのDUが変更する場合のHandoverを実施する手順です。
発生条件と動作イメージ
同一CU内のDUが切り替わります。Cell 2からCell 3に移動した際に発生します。
確認ポイント
端末(UE)がCell 2からCell 3に移動した際に、DUが変更になるためServCellIndex、PCIの変更が通知されます。
具体的には発生するシーケンスとやり取りを行っているメッセージを確認します。
Procedureの確認
Intra-gNB DU HandoverではUE、gNB(DU、CU)の間でメッセージの送受信が行われます。
以下は簡易的な物ですが、メッセージの送受信が正しくされているか、通信が中断されないか、想定外のメッセージの送受信がされていないことを確認します。
※CU、DU間は同一装置に実装されていることが多く確認観点から割愛しております。
メッセージの確認
Intra-gNB DU HandoverではUE、DU、CUの間でメッセージの確認を行います。
以下は簡易的な確認ポイントです。
※CU、DU間は同一装置に実装されていることが多く確認観点から割愛しております。
プロトコル | メッセージ名 | 確認ポイント |
RRC | MeasurementReport | • UEからSource gNBにMeasurement Reportが発生していること。 • Measurement Reportには、Source gNBの電界強度とTarget gNBの電界強度が含まれていることを確認。 |
RRCReconfiguration | • Source gNBからUEにRRCReconfigurationが送信されていることを確認。 • Source gNBの通信基地局ID(physCellId)が設定されていることを確認。 • Target gNBの通信基地局ID(physCellId)が設定されていることを確認。 |
|
RRCReconfigurationComplete | • UEからTarget gNBにRRCReconfigurationCompleteが送信(応答)されていることを確認。 |
まとめ
Handoverの種別、動作、変更点、確認方法について総括しました。
構成上の違いはあるものの、大きな変更はなく、LTE(4G)からの移行において確認すべきポイントも大きく変わりませんでした。Handoverの種別に関しては、LTE(4G)とほぼ同一であり、追加された部分もDUの切り替えに関するHandoverのみです。
確認方法においては、RRC(無線部分)が共通していることが確認でき、コア部分に関してもLTE(4G)と同様の手法が適用されています。
参考資料
Intra-gNB DU Handover
https://blog.3g4g.co.uk/2020/05/a-look-into-5g-virtualopen-ran-part-4.html
Inter-gNB DU Handover
https://blog.3g4g.co.uk/2020/06/a-look-into-5g-virtualopen-ran-part-5.html
Inter-gNB CU Handover involving Xn
https://blog.3g4g.co.uk/2020/06/a-look-into-5g-virtualopen-ran-part-6.html
Change of gNB-CU-UP without Handover
https://blog.3g4g.co.uk/2020/07/a-look-into-5g-virtualopen-ran-part-7.html
5G SA Handover – Inter gNB-DU and Intra gNB-CU Handover
https://www.techplayon.com/5g-sa-handover-inter-gnb-du-and-intra-gnb-cu-handover/
5G SA Inter gNB Handover – N2 or NGAP Handover
https://www.techplayon.com/5g-sa-inter-gnb-handover-n2-or-ngap-handover/
5G SA Inter gNB Handover – Xn Handover
https://www.techplayon.com/5g-sa-inter-gnb-hanodver-xn-handover/
5GSAでのHandoverの種類をまとめる
https://omusubi5g.hatenablog.com/entry/2022/09/17/231508
Intra-gNB-CU Mobility
https://www.tech-invite.com/3m38/toc/tinv-3gpp-38-401_i.html#top