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2023年5月に、総務省にて「新世代モバイル通信システムの技術的条件」のうち「5G等の利用拡大に向けた中継局及び高出力端末等の技術的条件」に関する意見募集が行われ、同6月にこれに関する一部答申が行われました。これを受け、総務省では5Gにおいて中継局や高出力端末を利用できるように法制度化を進めています。法制度化は2024年中に行われる予定とされており、間もなく5Gにおいてこれらの機器が利用可能となります。こちらはローカル5Gだけでなくキャリア5Gや4G(BWA)にも適用されますが、本ブログではローカル5Gに絞って、何が変わるのかを見ていきます。
※ブログの特性上ローカル5Gに絞りますが、キャリア5Gであっても考え方は同じです。
法制度化の概要
「5G等の利用拡大に向けた中継局及び高出力端末等の技術的条件」にて利用が検討されている機器は以下の通りです。
- 陸上移動中継局
- 小電力レピータ陸上移動局
- フェムトセル基地局
- 高出力端末(HPUE : High Power User Equipment)
このうち、陸上移動中継局と小電力レピータ陸上移動局は「中継局」または「Repeater(レピータ or リピータと表記)」と呼ばれる機器で、他の基地局や端末からの電波を受け、増幅して通信先の端末や基地局に送ります。中継局には基地局の機能はありませんので、純粋に電波を受けて増幅する機能のみを担います。ちなみに、名称には「移動」の文字が含まれていますが、固定設置して利用する想定となります。
これに対し「フェムトセル基地局」は文字通り基地局の機能を持ちます。フェムトはFemtoのことで、ごく小さなエリアをカバーする基地局です。一部キャリアLTEのサービスでも利用されているので、ご存知の方もいらっしゃるかもしれません。
最後に高出力端末です。こちらはHPUEという呼び方が一般的になっていますが、これまでの端末よりも高い出力で電波を送信することができる端末です。
これらはLTEでは利用可能なほか、一部機器は5Gでも利用可能ですが、これまでローカル5G(5GNR TDD全般)で利用することはできませんでした。今回、法制度化されると、こういった機器が利用可能となります。
中継局やフェムトセル基地局のメリット
ローカル5Gでは、Sub6(4.7MHz帯)とミリ波(28GHz帯)の電波を利用します。
まず、これらの電波は障害物などに弱く、あまり遠くに飛ばないという特徴があります。比較的電波が飛びやすいSub6であっても、基地局のカバーエリアは数100m程度であり、見通しが遮られる場所では、この距離はさらに短くなります。
このような場所で電波が飛ばない場所にその都度基地局を設置すると費用も多くかかりますし、見通しが遮られる狭いエリアで数台しか端末を利用する想定がない場合、多くの端末が接続できる基地局を設置することも効率的ではありません。
その為、スポット的に電波が届いていない場所は中継局やフェムトセル基地局を利用し、局所的にエリアを拡大することで効率的なカバレッジ拡張が可能となります。
冒頭に挙げた陸上移動中継局、小電力レピータ陸上移動局、フェムトセル基地局のどれを選択するかですが、このうち屋外で利用できるものは陸上移動中継局のみとなります。屋内で利用する場合は、中継したい無線局の電波をある程度の強さで受けられる場所であれば小電力レピータ、難しい場合はフェムトセル基地局を選択することが望ましいです。
基地局追加 or 中継局設置?
今後、エリアを拡大するという観点では、基地局の追加と中継局の設置、どちらが良いか?を検討する場面も出てくると思われます。
中継局は純粋に電波を増幅するだけで、接続可能な端末の数や専有できる無線領域は増えません。1つの基地局でカバーできるエリアが広がるだけなので、エリアを広げることに比例して端末が増える環境では適しません。端末のエリア内での利用密度が少ない場合に効率的にエリアを広げる手段となります。
カバーしたいエリアは狭くてもそこで使う端末が多い場合は基地局を追加した方が良い
今回の法制度化には直接関わっていませんが、エリアを広げる手段としてはDAS(Distributed Antenna System)もあります。中継局が無線でエリアを広げるのに対し、DASは基地局からケーブルを延伸してエリアを拡大します。どちらの場合も基地局のエリアを広げるという目的で使われますが、設置場所の制限や安定性などを考慮し、最適な方法を選択することになります。
高出力端末(HPUE)のメリット
一方で高出力端末は、全く違う観点でのエリア改善となります。
ローカル5Gの基地局からの電波は、最大63Wという比較的強い出力で電波を送出することが可能です。これに対し、端末(陸上移動局)は現状200mWまでしか電波を出すことができません。そのため、端末は基地局からの電波を受信できても、端末からの電波を基地局が受信できなくなることが起こり、結果としてローカル5Gの期待値通りのエリアを作ることが難しくなっていました。
高出力端末はこの端末側の送信出力の規制を緩和するものです。4.8-4.9GHzの周波数帯では29dBm(約800mW)、28GHz帯の利用では35dBm(約3W)まで引き上げられる見込みです。これにより、端末からの電波が届かなくなる状況が改善され、実際にローカル5Gを利用できるエリアが拡張されます。
なお、今回の改正では、屋内専用の周波数である4.6-4.8GHzは緩和の対象外となっており、これまで同様200mWが上限となります。
ただし、屋内の場合は基地局の送信電力が比較的小さくてもエリアカバーが可能で、各メーカー製品も屋内向け基地局の送信電力は1W程度の物が多くなっています。このため、端末の送信電力が小さい場合も屋外エリアほどのエリアギャップが発生しないと考えられます。
まとめ
ローカル5Gに限らず、無線通信においては端末側の電力がエリア拡大を妨げるケースが多々あります。5Gについてはキャリア網においてもエリアが小さいことが課題となっており、今回の法制度化によりこの問題が改善されることが期待されます。
【参考】
- 情報通信審議会情報通信技術分科会
新世代モバイル通信システム委員会報告(案)概要
「新世代モバイル通信システムの技術的条件」のうち「5G等の利用拡大に向けた中継局及び高出力端末等の技術的条件」
- 電波法施行規則
第四条 七の三 陸上移動中継局
基地局と陸上移動局との間及び陸上移動局相互間の通信を中継するため陸上に開設する移動しない無線局をいう。
- 電波法関係審査基準(平成13年1月6日総務省訓令第67号)(地域BWA抜粋)
陸上移動中継局
空中線電力の最大の値を指定することとし、基地局への送信空中線にあっては(イ)陸上移動局の規定による値、陸上移動局への送信空中線にあっては(ア)基地局の規定による値とする。
- DSPリサーチ 2011年11月ニューストピックス
https://www.dspr.co.jp/wp/wp-content/uploads/2015/04/mobile_relay_station_1.0.pdf